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最終話 設定資料集の向こう側へ

 キーボードを叩く俺の指は止まらない。幻の前世で培った『炎上案件(物理)の報告書作成』の経験技術で、世界のソースコードを書き換えていく。


「速い! アルマさん、速いです!! 原作神様のサーバーが、あなたの『社畜の情熱』……いえ、『社畜の執念』に耐えきれず、オーバーヒートしています!」


 ミコトが、無数の文字列を映り込ませた両の瞳を輝かせている。モニターからは火花が散り、創造神――今は原作神となったワナビー☆サトウは、床に突っ伏し絶望の声を上げていた。


「もうやめて……Web小説の創作論を読み込んで考えた、絶対ウケる設定が……ハウツー本で鍛えた整合性が……全部、全部なかったことにされちゃう……!!」

「黙っていろ、ワナビー☆サトウ。創作論だの整合性だのプロットだの、そんなものは『異世界(現場)』を知らない管理職の戯れ言だ!」


 支離滅裂な偽りの前世の記憶の没データ――その残骸をかき集め、俺は『現代日本』という名のファイルに全てをぶち込んだ。それら一つ一つを丁寧に並び替え、『かつて実在していた歴史』へと書き変える。

 世界の履歴(歴史)が更新されることにより、現在に至るまで紡がれてきた人々の思考パターンも、上書きされていく。

 シノの『切腹志願』は『静謐なる武士道』へ。エルヴィンの『独りよがりな兄弟愛』は『生命への慈愛』へ。ミコトの『神託の受け売り』は『賢者の情報網』へ。

 そして俺の、『偽りの現代日本の記憶』は『地獄のような前世を、確かに生き抜いた記憶による折れない心』へと再定義リブートされた。


「――全工程、完了フィニッシュだ!!」


 ッターン!

 俺が最後のEnterキーを叩き伏せた瞬間、視界が真っ白な光に包まれた。


「アルマ殿! 拙者、なんだかお腹を召すよりも もっと正しく『楽しい何か』が、この先に待っている気がしてなりませぬ!」

「アルマさん! 兄さんが……兄さんが植木鉢を出て、自らの足で歩き始めました! 生命とは……生きるとは なんて尊く、素晴らしいものでしょう!!」

「……今日は労いの神、『お疲れ様でした』様が降臨されました。……神様、泣いてらっしゃいますね」


 光の中で、仲間たちの声が響いている。

 俺の中から、火炎放射器や装甲車に塗れた異世界の記憶の断片ノイズが消えていく。……いや、違う。それはこの世界に確かに存在した古の歴史、その時代を生きた実在した前世の思い出だ。ただの『笑い話』として、心の片隅に置いておけばいい。



 白い光が消え、気がつくと俺達は元の世界の、澄み渡る青空の下に立っていた。

 『天界の塔』は影も形もなく、ただ 広い草原に穏やかな風が吹き抜けていく。


「アルマさん、これから いかがいたしましょうか。原作神『ワナビー☆サトウ』様との繋がりは、もう 完全に切れてしまったのですよね?」


 ミコトの瞳に、謎の文字列ではなく戸惑いの色が映り込んでいる。はじめて見せる、生身の少女らしい表情だ。


「ああ。俺たちはもう、誰かの尻拭いも、穴埋めもしなくていい。『自由業フリーランス』だ」


 そして、この世界はどこまでも広い。この草原のはるか先には、煌めく海が広がっている。

 記憶の中の『日本時代』は、相変わらず 炎と暴力にまみれたままだ。都知事は空からビームを放つし、満員電車は武装して戦場へと突入していた。でも、それでいい。遠い古の昔にこの世界を通り過ぎた『歴史』として、そこにあるだけだ。俺も仲間たちも、今の この世界に生きている。


 「……ハワイ……」唐突に、そんな単語が俺の口からこぼれ出た。怪訝な顔で覗き込んでくる仲間たちの視線を受けて、俺の中に再び前世の記憶が蘇る。


「思い出した……。『日本時代』では、制圧ミッションに成功すると、浜辺でマカダミアナッツを投げ合う『ハワイパーティ』が恒例となっていた。今こそ『ハワイパーティー』を開催する、絶好の機会じゃないか?」


 はじめは『ハワイパーティー』という単語に、仲間たちはキョトンとしていた。が、すぐに誰もが、満面の笑みで頷き返す。


「ほう、浜辺にて宴でござるな! 拙者、こう見えて舞踊の心得もござりまする。渾身の腹切り音頭をご覧に入れよう!」

「そうなると、マカダミアナッツが大量に入り用ですね! お待ちください、買物神『Amazonプライム』様と取寄せ神『楽天市場』様に、お急ぎ便で発注の祈りを捧げますね!」

「兄さんが二万五千年ぶりに波乗りをしたいそうなので、サーフボードもお願いできますか?」


 見る限り、仲間たちも皆、乗り気だ。俺は高い空めがけて、握った拳を突き上げた。


「行くぞ、お前ら! 誰の指図も受けない、俺達の新しいプロジェクトの始まりだ!!」


 この先に煌めく海を目指して駆け出す俺に、シノが、エルヴィン(と ジャクションさん)が、そしてミコトが、続いて走り出す。それらの笑顔に、一点の曇りもない。


 ここから先は、誰のものでもない。俺達だけの、物語だ。



  【完】

 ……違うんだ。俺が書きたかったのは、もっとこう、悲劇を乗り越えて微かな希望を掴んだり掴めなかったりするような、硬派で切ない物語で……。なんで最後、全員でマカダミアナッツ投げあって終わるんだよ……何だよ『ハワイパーティー』って。知らねぇよそんなイベント。


 ……まぁ、いいか。未完エタるよりはマシだし。……アイツら、俺よりよっぽど『生きてる』からな。これでいいや、おしまい……っと。

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