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6話 激突! サイボーグ勇者のVS定時退社(バニッシュ)のアルマ

 順調に顧客を増やしつつ、そろそろ新たな事業の開拓を始めようかと 企画会議をするために集合した俺たちの耳に「勇者が来るぞー!」と 近隣の悪ガキの声が飛び込んできた。


「なんだ、オオカミか」

「オオカミだったら兄さんの防衛センサーに引っかかりますから、放っておいても大丈夫ですね!」

「さすがに獣に召す腹はなかろうよ」

「ヴイヴイヴイ、ヴイヴイヴイ。……おっと、ここで 伝達の神『緊急速報』様が降臨されました。『勇者警報が発表。強い揺れに警戒してください』だそうです」

「なっ……! 勇者だと!?」


 完全に予想の外だった勇者警報に、俺は思わず立ち上がった。

 王国の最終兵器とも言われる、鉄壁の勇者セイン。魔王の話は聞かないが、王国内で悪の芽が生まれるたびに駆り出され、悪の芽吹いた一帯を 文字通り焦土と化して去っていく究極の正義執行者だ。もしかしたら、魔王も知らない間に処理されているのかもしれない。


「そうか、とうとう勇者が出動したか……」


 俺たちが丹精込めて作り上げた この農業生産法人ファーミングギルドが、悪の芽として認識されてしまったようだ。摘み取られる前に、クレーマーにはお引き取り願わなければ。


 我らが農業生産法人『新緑の聖域』に被害が出ないよう、俺たちは森の外にて 勇者の営業訪問を待ち受けた。この辺りなら、多少 荒らされたところで、損害は軽微だ。

 やがて現れたのは、光り輝く白銀と赤と青に塗り分けられた全身鎧をまとい、雷光の紋章の刻まれた盾と聖剣を両の手に構えた、伝説そのものの勇者の姿だった。

 「ズゥー……ン、ズゥー……ン」と 口頭による効果音に合わせて歩み寄り、俺達と対峙した瞬間、勇者セインは奇妙な動作ポージングを決めて叫んだ。


「――システム・VSオールグリーン! 勇者型壱番機・セイン、目標を確認ターゲット・ロックオン! これより『不法投棄』の強制排除および、洗浄消毒を開始する!」


 勇者セインの背後から、やたらアツいボーカル入りのBGMが流れ出す。「なんなんだ、この歌は……」俺の脳内に、前世の記憶が警鐘として響き渡る。まさか、まさか奴は……!!

 ――日本の都市防衛の全てを一手に担ってきた、巨大メカスーツサラリーマン『サラリーボーグ』の転生者だ。あの様子を見るに、奴も前世の記憶に覚醒している。


 脂汗を滲ませる俺に、ミコトが虚空の『レビュー』を見つめながら 冷静に告げる。


「アルマさん、情報神『Wikipedia』様が仰っています。……勇者セイン、戦闘力53万。ただし、『作画コストが高すぎて、あと3分で動けなくなる』とのことです。『もう二度と、あんなデザインにするもんか』と、当時の作画神様も嘆いておられたようです」

「いい情報だ! そういうことなら時間稼ぎだ、シノ! エルヴィン! 一秒でも早く、アイツの『体力バッテリー』を消耗させるぞ!」

「承知いたした! バッテリー……つまり、あの白銀の皮を剥いで、中から出てきたお腹を召し上がれば良いのでござるな!」

「剥ぐだなんて はしたないですよ、シノさん! 兄さんの得意な、デスメタル子守唄で対抗して、強制的に『スリープモード』に持ち込みましょう!」


 セインは聖剣を振りかざし、現代日本での物理法則を無視した機動で迫り来る。


「無駄だ! 私の装甲は(自称)超合金Z製!! 食らえ、必殺『リストラ・デストラクション』!!」


 凄まじい熱線が放たれるが、俺は冷静に『ドゲザ・スライディング』でその直下を滑り抜けた。


「ふっ、甘いな。現代日本では 強敵・上司による 怒号というレーザーを避けるために、この回避運動は必修資格だったんだ!」

「何だと!? 私のセンサーを感知し、回避したというのか!? だが、これならどうだ! 新入社員ニューフェイスによる『定時退社バニッシュ』!」

「くっ……コンプラを盾にする大型新人め」


 セインが姿勢制御スラスター(背中のマント)を広げ、急加速する。


「ミコト! アイツの『給与明細』は、神聖術でハッキングできるか!?」

「可能です。おいでませ、取引の神『メルカリ』様。勇者セインの『やる気(モチベーション)』を出品し(捧げ)ます。……ピロリン! 即決されました。現在の勇者セインの『やる気(モチベーション)』、マイナス10000です」


 途端に、セインの動きが目に見えて鈍くなった。


「くっ、エネルギーが……足りない……っ! 出力低下、セーブモードに移行。……腹が、減った……」

「今だ、エルヴィン! 君の兄さんにたかってくる悪い虫を追い払うために作り上げた、『超強力殺虫団子』を、アイツの口に叩き込め! そう、ヤツは悪い虫……言わば『強制アップデート』だ!!」

「おのれ害虫っ!! 僕がいる限り、兄さんには根毛一本触らせないぞ!!」


 普段のおっとりした表情からは考えられない鬼の形相で、エルヴィンは『超強力殺虫団子』を投げ放つ。その全てが、セインの口へと吸い込まれていった。


「ぐ、うああああ!? ……汚染物質(劇毒物)が、回路(胃袋)に逆流するううう!! 撤退だ。一旦 ベースキャンプ(実家)に戻って、再起動(昼寝)してこなければぁ!」


 勇者セインは「シュゴーッ」と謎の排気音を口頭で鳴らしながら、そして腹からは謎の「ごぎゅるりるるる」という音を鳴らしながら、全速力で走り去っていった。

 勇者の後ろ姿が完全に見えなくなって数秒後、彼が消えた先から激しい爆発音と黒煙が上がる。

 勝利を確信してやっと、俺はふぅ、と額を拭った。


 「危なかった……勇者セイン、やはり強敵だ」


 現代日本の勇者サラリーマンだった頃は、『給料日の前日には光ファイバーを食べて飢えをしのいでいた』ものだが、アイツも相当な修羅場を潜って来たと見える。


 俺は自分の記憶の中の『現代日本』が、『別の何かサイバーパンクディストピア』に書き換わっていることに気付かないまま、勝利の余韻に浸っていた。

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