4話 エコ・フレンドリーな ジェノサイドを防ぐ方法
ようやく拠点として整い始めた『新緑の聖域』に、ついに王国の追撃の手が伸びた。
現れたのは、王国魔導騎士団。彼らはこの森を『呪われし変異種の巣窟』と呼び、一息に焼き払ってしまおうと目論んでいるようだ。非生産的なことこの上ない。
「エルヴィン、下がっていろ。君の『家族』は、俺が守る」
「アルマさん……でも、相手は火炎魔法に長けた王国魔導騎士団です。兄さんが、よく乾燥した兄さんが燃やされていい感じの備長炭にされてしまう! ついでに森と大農園も燃えてしまいます!」
怯えるエルヴィンを背に、俺は冷静に戦況を分析する。
火炎魔法とは、前世の用語で言えば『熱エネルギーによる物理攻撃』だ。これを防ぐには、現代日本の環境保護活動、すなわち『エコ・ロジック』を応用するしかない。
本来の用途ではないのだが、背に腹は代えられない。
「シノ! 例の『石』の準備はいいか!?」
「はっ! 河原でたんまり拾い集めた、平らで座りの良い、かつ大振りな石にござるな。これをどのように切腹に役立てると申すか」
「役立てるのは切腹じゃない、『ソーラーパネル』だ!」
俺はエルヴィンが丹精込めて植え替えた、日当たりのいい大樹の根元の一等地に頭を出して埋められている枯れ木のような老人……もとい、エルヴィンの兄 ジャクションさんの頭に、平らな石を丁寧に積み上げさせた。
「いいか、エルヴィン。前世で俺が生き抜いてきた『日本』という国では、『石肥え三年』という農法が一般的でな。畑に石板を敷き詰め、植物の光合成を最大化するために『5G』という名の高エネルギー波を受信する技術が推奨されていたんだ。これが完成すれば、お兄さんは究極の防衛システムへと進化する」
「5G……? よくわかりませんが、日本という国における 高度なバイオ技術なのですね!」
エルヴィンの瞳が希望に輝く。ソーラーパネルの石板(代替品)を積み上げられたジャクションさんが 重さで鼻のあたりまで地面に沈み込み、土気色に変化している気がするが これは活性化に伴うデトックス現象が進んでいる証だ。正直、そこはあまり詳しくないけれど。
「次にシノ! 君の刀に俺の魔力……いや、『静電気』をチャージしろ。日本のサラリーマンは冬場になると指先から電撃を放つ、『帯電体質』を会得していた。それを応用するんだ!」
「なるほど! 雷を帯びた刀で、自らのお腹を……!!」
「違う、敵をだよ!!」
魔導騎士団が放った大火球が、森を焼き尽くさんと次々に迫り来る。
今こそ、好機! 俺は叫んだ。
「今だ、エルヴィン! お兄さんの『エコ・モード』を 最大出力で起動しろ!!」
「了解です! 兄さん大好きハグアターック!!」
エルヴィンが持てる限りの敬愛を込めて、ジャクションさんの頭を掴んで引っこ抜く。ここからでも分かるほどの衝撃で石が崩れ落ち、同時にジャクションさんは「こぉのぉ、わんぱく坊主めぇぇ(そんなとこが、たまらなく可愛いんだけどね)!!」と寝言の叫びを上げた。
長命種の狂気の(愛情に満ちた)咆哮は 森に住まう精霊たちを錯乱させ、大火球を叩き消すほどの巨大な蔦が 幾本も地面から噴出する。
「おおお!! 兄さんの寝言が、敵の熱エネルギーを吸収している! さすがアルマさん、日本の『エコ』は 破壊力が違いますね!」
蔦に絡め取られ、「化け物だ!」「いや、変態だ!!」と叫びながら退散していく騎士団を見送り、俺は満ち足りた気持ちで頷いた。
「ふふ、論理的な解決だ」
エコとは、すなわち効率的な排除。日本の『環境庁』という名の武装組織が提唱していた理論は、異世界でも十分に通用する。
ふと隣を見ると、一緒になってひと暴れしてきたシノが戻ってきているのが目に入った。「新たな切腹の作法……石を積む型と雷を纏う型……」と、熱心にメモを取っている。
そんなシノを微笑ましく思いながら眺めていると、脳裏にまた、前世のものと思われる記憶の映像が閃いた。『日本の総理大臣は、国会の決議をサイコキネシスで通していた』と。
……サイコキネシス? 国会の決議を通すのに? まさか、そんなはずは。
「いやいや。前世での俺は平社員の一市民だ。閣僚級の超能力について、精通していたわけじゃない」
わざと口に出し、疑念を振り払う。
俺の『現代知識』に、わずかに違和感が芽生えた瞬間だった。




