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3話 長命種の家庭内事情、兄さんは土の中で光合成中

 深い霧に包まれた『新緑の聖域』。

 追手を撒くと同時に新たな仲間を得るために踏み込んだその先で、俺たちは一人の美青年に出会った。

 瑞々しい緑色の肌に、より深い色のエメラルドの瞳。現代日本のファンタジー創作物でいうエルフに似た、植物系の長命種だ。


 出会った、とは言ったものの、彼はこちらに目もくれず、古めかしい大樹の前で 一心不乱に地面を掘り起こしていた。


「ああ、兄さん兄さん。もう少しですよ。今、もっと日当たりのいい場所へ、移してあげますからね」


 その健気で必死な姿に、俺は胸を締め付けられた。

 間違いない、彼は前世の日本で言うところの『在宅介護に励む献身的な若者(ヤングケアラー)』だ。この不毛な世界で、動けなくなった家族を 必死に守り抜こうとしているのだろう。

 よくよく見れば、大樹の根元に枯れ木のように干からびた 老爺の頭が覗いている。既に手遅れとも思えるが、隣のシノが刀を抜きたそうにウズウズしている様子を見ると、まだ命の灯は尽きてはいないようだ。

 俺はそっとシノを制し、慎重に長命種の青年に歩み寄った。


「唐突にすまない。君のその献身、感銘を受けたよ。俺はワルノーリ領の領主ボッタクリ・マックリーの嫡男、アルマという者だ。君の名と、君の困りごとについて聞かせてほしい」


 長命種の青年は驚いた顔で振り返った。その目にはうっすらと涙が浮かんでいる。


「ぼ、僕と兄さんの名前ですか……? 兄さんはジャクション、僕はエルヴィンです。兄さんは僕らの部族の長老争いで惜しくも二時間差で長老の座を逃してしまうほどの偉大な実力者なのですが、長老の座を逃したショックで、休眠期に入ってしまわれたのです。ただ、ここでは日当たりも悪く栄養も行き渡らないので、目覚めることができないのではないかと……!!」

「介錯が必要でござるか?」

「介錯? そうですね、現長老を介錯していただければ、兄さんに長老の座が回ってくるはず!」


 休眠期か。なるほど、現代日本で言うところの『長期療養スリープモード』だな。


「介錯はちょっと待ってくれ。俺にも協力させてくれないか。俺の知識によれば、植物……いや、長命種の活性化には『光合成の最適化』と『土壌の成分調整』が不可欠だ。日当たりのいい土地に移り、窒素・リン酸・カリウム、これらを黄金比で配合すれば、お祖父さんは必ず目を覚ます」

「短命種の方にはよく間違われるけど、兄さんは同じ親株から生まれた実兄です!」

「ごめんなさい」

「だけど、光合成……。そして黄金比……? 初めて聞く処方です。あなたのやり方なら、今度こそ兄さんを救えるかもしれない!」


 勢い込んで エルヴィンが俺の手を握る。その手は泥だらけだが、家族を思う熱量ラブに満ちていた。俺が現代知識から提案した『バイオテクノロジー』に、彼は希望を見出したようだ。

 これで植物に詳しい有能な人材が確保できた。エルヴィンの『菜園能力』があれば生産性が上がり、食糧問題も一気に解決する。……しかし、妙だな。

 俺の前世の記憶に残る『家庭菜園』には、畑の上に巨大な石板を乗せて5Gの電波を受信しやすくする必要があったはずだ。この世界では、常識ではなかったのかな。まあ、細かい技術仕様の差は、これから現場で調整していけばいい。


「シノ、エルヴィン。俺達は今日から、この『新緑の聖域』を農業生産法人ファーミングギルドとして再建する! ジャクションさんの目覚めが、俺たちの農業生産事業の第一歩だ!!」

「合点承知でござる! ジャクション殿の覚醒を目指し、拙者もいつでも介錯できるよう、刀を研ぎ澄ませておきましょうぞ!」

「ありがとうございます! 良かったね、兄さん。三万年前のゴリマッチョ全盛期に戻るためのカウントダウンが始まったよ!」


 高潔な忠義の女武士と、家族愛に溢れる青年。こうして俺のパーティには、二人目の専門職なかまが加わった。


 一瞬、俺の脳裏に『一億総ハッカーである日本人は、脳内に直接LANケーブルを挿している』光景が通り過ぎていく。そのビジョンが何を示しているのか 今は良くわからないが、過労死寸前だった佐藤賢一が最期に見た幻覚だろう。

 だって眼の前の現実は、こんなにも『王道』を突き進んでいるのだから。

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