Ep80 Chapter“2” Scene“4” Cut“3” Take“7” 不健全対決は唐突に
再び、全天候型変形闘技場が、その姿を変えていく――
「それでは次の種目に参りますわよ?会長、お覚悟宜しくて?」
この時の稜真は、梢の事が理解出来なくなってきていた。この“果たし合い”は、梢が望んだ事だ。
だが“障害物競争”で、その梢から“勝ちに行く気配”を何一つとして感じられなかった事が大きな要因だった。
結果として彼は、このまま競技を続ける“意味合い”を、疑問視せざるを得なかったようだ。
「小森さん。ボクは別に構わないけど、一つ聞かせて欲しい。
いいかな?」
「宜しくってよ」――その言葉に稜真は遠慮なく、自分が感じた疑問をぶつけていく事にした。
「小森さんは、ボクの事を恨んでいるんだよね?それだから、こんな“果たし合い”を求めたんじゃないの?
ボクは本当なら仲間同士でこんなコトをしたくない。木之下先生も、森園さんも、そして小森さんも大切な仲間なんだ。
だから……もしも小森さんが本気で向かって来ないなら、ボクはこの“果たし合い”に意味を感じられない」
稜真の真剣な眼差し。梢は例によって、その類稀な“ポンコツフィルター”を通す事で、再び曲解する事になったようだ。
その結果、顔は一気に上気し、頭のてっぺんから湯気でも立ちそうなくらい、耳まで真っ赤になっていった。
「かかか、会長!ななな、なんて破廉恥な事を宣ってくれちゃってるんですのッ!わたくし達、まだ結婚もしておりませんのよ?
それに、わたくし達は付き合いたてで、しかも付き合い初日に行うような事なんかじゃ、ありませんことよッ!」
稜真の脳内に“?”が大量に浮かんでいたのは言わなくても分かるだろう。話しのすれ違い。辻褄が全く合わない。そして、会話が噛み合ってすらいない。
これじゃあ本当に――木之下先生が言っていた“冗談”そのものじゃないか……と。
ちなみに、優秀なフィルターのお陰で、最初の「恨んで〜」の辺りは全カットされている。
「小森さん?一体何を言っているの?破廉恥?結婚?付き合いたて?
ボクにも分かるように話してもらえるかな?」
梢は財閥のご令嬢であり、お嬢様だ。従って脳内お花畑の内容を口から絞り出せるハズもない。そんな事をすれば“恥ずか死”してしまう。要するに一言で言えば、“ムッツリ”というヤツだ。
ポンコツをここまで拗らせるのも、なかなかどうしてレアモノとしか言いようがない。
逆に稜真は、健全な男子とは思えない程にストイックだ。女性経験など一切無く、今でこそミチルと付き合っているが、手の一つすら握らず、指先でその肌に触れる事すらない。
よって、健全な男子が思春期に夢見るような、異性のカラダについて、全く興味がないという、完全に不健全な形に拗らせている。
要するに……だ。片や、異性の体温を「情報」としてすら受け付けないほど、極限まで磨き上げられたストイックな“不健全”――稜真。
片や、一通の手紙から孫の代までの家系図を脳内で完成させかねない、重度の妄想癖を持つ“不健全”の塊――梢。
そんな二つの“不健全”な形がこの場にある以上、それらは水と油であり、思考は平行線を辿り、交わる事はあり得……ない。
いや――むしろ絶対に交わってはならない類の、“純粋過ぎる歪み”だった――
「えっ?だって会長……わたくしの“ラブレター”を受け取って頂けた上で、先程、付き合おうと仰ったのではないんですの?
それなのに、破廉恥なコトをしようだなんて、早急が過ぎますわ!
わ、わたくしにだって、こ、心の準備というモノがありましてよッ!こう見えて、恥じらいのある乙女なんですの。」
稜真は更に混乱を極めていった。“果たし状”を送り付けた時点で、覚悟を決めているのは当然だと思う。それなのに、「恥じらいのある乙女」などと言われてしまうと、矛盾しているようにしか聞こえて来ない。
だからこそ会話のドッジボールが成立しているようで成立していない。
結果として、「何かが食い違っている」と考えるのは当然の流れだった。
しかしながら……だ。もしも仮に、稜真の視線が、無意識にでも、彼女の活動的な体操着姿――特に、その眩しいほどに露出した脚――へと向けられていたならば、そんな格好で「早急すぎる」と詰め寄られても……と、少しは“不健全”が“健全”な方向に歩み寄ったかもしれない。
しかし稜真である以上、そんな事が起こるハズもない――
「小森さん。何かを勘違いしていないかな?これは“決闘”なんだよね?小森さんが、先生の仲間になる為の“儀式”みたいなモノなんだよね?」
その言葉に梢の“ポンコツ回路”は急速に且つ、安定してフル回転を始めていた。その結果、導き出された答えは、「稜真と夕樹菜、更にそこに自分を加えた三人での、爛れたカンケイを求められている」という、もはや誰にもどうにも止められない、熱帯の極地とでも言うような熱量を持つ“極致”へと至ってしまった……という事である――
―― To the Next Take ――




