Ep77 Chapter“2” Scene“4” Cut“3” Take“4” 想いの丈は唐突に
「それで、小森さん。今日はここで何をするの?
こんなにドローンも飛んでるし、カメラだって凄い量だ。
でもその前に、ボクは何をやらされるのかを知らないんだけど?」
「そうでしたかしら?あの“果たし状”に“競技内容”を記載して……ありませんことね。
いいですわ。この不肖、小森 梢。ちゃんと説明責任を果たさせてもらいますわよ」
どうやら、梢のポンコツっぷりは、“果たし状”を書く時から既に始まっていたようだ――
――遡る事、数日前
小森邸、梢の部屋――
「あぁん!もうッ!どうすればいいんですのッ!
わたくし、これまで殿方にお手紙なんて、書いたコトが一度たりともありませんのよッ!」
梢は自室で筆を走らせていた。精神を統一させ硯で墨を磨り、白毛の細筆をその手に握り、便箋に筆を走らせる。だが、書いては捨て、書いては捨てを繰り返し、いつぞや彼女の部屋の床は、まるで“文豪の卵”の部屋のようになっていた。
それはさながら、激戦を終えた戦場の跡。指先にこびりついた黒い汚れすら顧みず、彼女はただ一人の「殿方」へ届ける言葉を、産みの苦しみの中で絞り出していたのだ。
当然そこには統一されたハズの精神など見る影もない。到底、静謐な精神統一とは程遠い、焦燥が入り混じった濃い墨の香りが充満していた――と言ってもいいだろう――
――拝啓。季夏の候、森之木 稜真様におかれましては、お忙しい日々を――没。
――森之木会長。高校時代は格別のお引き立てを賜りまして、誠に感謝の念に――没
――My Dear Ryoma. I hope this letter finds you well――没
朝には書き始めたハズが、気付けばヒグラシが鳴いている。精神統一したにも拘わらず筆が乗らない梢の心は、セミに負けじと泣いていた。
硯で磨られる墨は泣きこそしないが、墨を握る指先は、ピリピリと悲鳴を上げていた――
――コンコンッ
「梢お嬢様、失礼致しま――」
小森家に雇われているメイドが、「夕食の支度が出来た」と伝えに来たようだ。
……が、そのメイドは部屋の扉を開けると、文豪部屋さながらの様子に絶句していた。
「梢お嬢様、こんなに散らかされてまで、一体何を書かれていらっしゃるのですか?」
メイドが床に散乱している手紙の残骸を拾い上げようと手を伸ばしたが、焦った様子で梢はそれを必死に止めた。
「こここ、これは、その……そう!“果たし状”ですわ!けけけ、決して“恋文”などではありませんのよ!」
「……承知いたしました。その、“果たし状”が完成しましたら、夕食になさってくださいませ」
メイドは梢の狼狽振りに少し目を丸くしていたが、直ぐに教育の行き届いた無表情へと切り替えると、深く一礼して部屋を退いていった――
斯くして“果たし状”は、このような過程を以って爆誕するに至る。
そこから先はトントン拍子に話しが進む。「果たし状を書く」となれば文章など書かず、最低限の場所と日時で事足りる。これで梢の筆も漸く本調子となった。
そして書き上げた物を読んでから、梢は何かが足りないと感じたのである。
そこで最後に一文を添えた。
――会長、早くお会い出来る事を楽しみにしておりますわ――
――それは梢が籠めた、ありったけの勇気――
――それは梢が籠めた、ありったけの想い――
――それは梢が籠めた、ありったけの願い――
不器用でポンコツな女が書いた一世一代の“ラブレター”だった――
―― Return to Previous Cut ――
「これらのカメラは、お父様が勝手に手配したモノですわ。不快でしたら下げさせますわよ?
あの“コンコンチキ”が何を考えているかなんて、わたくしにはこれっぽっちも見当がつかなくってよ」
梢は吐き捨てるようにそう話したが、父親の過剰なまでの期待を気恥ずかしく思っているのかもしれない。だからこそその頬を、微かに赤らめていた。
しかし一方の稜真は小森 楓梢という人物を知らない。だが、財閥の長にして『魔眼』への理解もあるとは聞いている。
よって稜真がそこから考え付く答えは“分析”だった。「恐らく、小森 梢の父親は『点眼』の秘密を探っているのでは?」という内容だ。
確かに『点眼』はレアな『魔眼』であり、“学園”と繋がりがあるならば、その情報は掴んでいても可怪しくない。
夕樹菜が組織を作り、いずれ“学園”から離反するのだから、そんな“分析”は困る以外の何者でもなかった。
だが逆に、ここで変に勘繰られるワケにはいかない。財閥の会長にまで昇り詰めた男だ。その手の“勘”が鈍いとは、どうしても考えられない――
「ボクはカメラで見られていようと構わないよ。
それで小森さん。その“競技内容”っていうのは何だい?」
「えぇ、これですわッ!」
梢が手を高々と振り上げていく。その直後、地面が地響きを立て揺れた。どうやら、何かが地面からせり上がって来ているようだ。
稜真の耳にはゴクリという音が入って来ていた――
―― To the Next Take ――




