Ep76 Chapter“2” Scene“4” Cut“3” Take“3” 背筋の寒気は唐突に
「森之木 稜真様はこちらに。
木之下 夕樹菜様と、お連れの“ビジター様”は別の者がご案内に参りますので、こちらでお待ち下さい」
VIP専用シャトルバスに乗った三人は終始圧倒されていた。専用エントランスから、地下道へと入ったシャトルバスは、地上なら混雑している人混みに辟易とするところ、目的地までたったの五分で到着した。
更にシャトルバスが暗い地下道を進む最中も、たったの五分であっても乗車しているVIPが退屈しないように工夫が為されていた。
シャトルバスの窓を埋め尽くす液晶パネルには、地上の喧騒とは無縁の『スモールフォレスト』の絢爛豪華な情報が躍っている。
その“現実離れした光景”に梓が目を輝かせる傍らで、稜真は地下道のわずかな振動を肌に感じ、自分が逃げ場のない深淵へと引きずり込まれていくような錯覚に陥っていた。
ちなみに梓は、夕樹菜が説明した事でスタッフが連絡。その結果、“ビジター”として同行が許可される事となり、霹靂に打たれた“石化”は一瞬で回復。
彼女はその大きな胸を撫で下ろしていた――
シャトルバスが到着し、ガイドに連れられた稜真は歩を進める。どれくらい歩いただろうか。薄暗い廊下の上部で緑色の光を放つ、ピクトグラムとは逆の方向に歩いていく。
彼の心は、光を放つソレと、同じ方向へ向かいたい気分だった――
少し先に明かりが見える。そこが目的地なのだろう。
“果たし状”に書かれていた達筆の文章を思い出しながら、稜真は複雑な気持ちに感情を支配されつつあった――
「こちらにお入り下さい」
一方、夕樹菜とビジターの二人は遅れてやって来た別のガイドに案内されて、最上階へとやって来ていた。
ガイドが開けた扉には、“VIPルーム”と書かれており、その文字が梓のテンションを爆上げさせていく。
「――ッ⁉
小森財閥会長、小森……楓梢」
「お久し振りです。確か……木之下先生……でしたね。
ところでそちらのお嬢さんは、高校時代の梢のご学友かな?」
誰もいないと思っていた部屋の中にいた先客は梢の父親。夕樹菜としては想定していなかった事態ではない。だが、その可能性は限りなく低いと思っていた。だからこそ、驚きを隠し切れていない。
そんな夕樹菜とは裏腹に、テンションが上がりまくっていた梓は、実に気軽に話し掛けていったのだった。
「はぁい!梢ちゃんの同級生だった、森園 梓ですぅ。
ところで、オジさんは誰なんですかぁ?」
そんな梓の屈託のない言葉に、「ば、馬鹿ッ」……と言葉を発し掛けた夕樹菜の背筋を、何か得体の知れない冷たいものが奔っていった。
しかし楓梢は、気を悪くした様子もなく、むしろ愛娘の名を呼ばれたことに満足げな、慈愛に満ち過ぎた――それゆえに狂気を感じさせる笑みを深めていった――
「今日は娘の“晴れ舞台”だと聞いたものでね。居ても立ってもいられず、こうやって見に来てしまったのだよ」
「娘?あぁ、梢ちゃんのパパさんなんですねぇ」
梓のセリフに「いかにも!パパだよ」と胸を張って答えた楓梢に対し、夕樹菜は“晴れ舞台”という言葉に違和感を覚えていた。
梓が話すには、これは梢から稜真に対する大掛かり過ぎる“告白”だ。場所が場所なだけにその可能性が高いと彼女は見積もったようだ。
一方で稜真は、梢が戦いを挑んでくると考えていたようだが、夕樹菜としては“戦い”よりも梓の内容に“一理ある”と考えていた。
それでも“果たし状”という文言に違和感がないワケではない。
……が、稜真に対して正面から戦いを挑むとは考え難かった。
よってそれらを全て踏まえる。更には今までの梢のポンコツ振りも足して察する。すると――
デートして空回りした挙句に、“告白”など出来るハズがない――そう勝手に結論付けていた。
そこに“晴れ舞台”というセリフが重なる。娘の告白を見に来る父親がいるとは到底思えない。それにこの父親は、“ドタコン”だ。
そんな父親が娘の“告白”シーンに耐えられるハズがない。
夕樹菜の視線の先、“VIPルーム”から見える窓の外。そこには無数のドローンが飛び交い、観客席には無数のカメラが所狭しと場内に向けられている――もはやここは、“異様な空間”としか言い表しようがない。
――告白を、父親が、無数のカメラとドローンで包囲して見守る?……あり得ない――
――梢の性格を考えれば、そんな「晒し者」になるような真似を許すハズがない――
これから始まる“何か”を待つ機械の群れが、獲物に対して狙いを定め、次の一歩を探る獣のように静まり返っていた――
娘を溺愛する余り、その人生の“全て”を余すことなく“記録”しようとしているなら、他人が口を挟む事は出来ないだろう。
しかし自我が無い――幼い頃ならいざ知らず、大人になった梢がその行為を認め、許可を出しているとは到底思えない。だからこそ夕樹菜は、混乱を極めていた。
ここまで楓梢は「親バカなのか」……と――
―― To the Next Take ――




