Ep75 Chapter“2” Scene“4” Cut“3” Take“2” 青天の霹靂は唐突に
「それで、何かボクに御用ですか?申し訳ありませんが、進捗は学園にも報告した通り“ゼロ”です」
「あぁ分かっている。梓と違って、お前は本当に働き者だからな」
夕樹菜は床に転がっている梓に、視線を落とした。その瞳には多少なりとも恨みが籠っているように見えた。
対して稜真は何も口には出さないが、梓に対して憐憫の色を滲ませながらも、その瞳はどこまでも非情だった。
そして梓を一瞥した夕樹菜は、スーツの内ポケットから一通の“手紙”を取り出すと稜真に向けて差し出したのだった――
「これを稜真に渡して欲しいと預かった。受け取れ」
――果たし状――
それはパステルピンクにリボンのシールが貼られた、いかにも乙女チックな可愛らしい封筒。……の表面に書かれた、達筆の文字。
そんな可愛らしくない達筆の文字で、『果たし状』と書かれていた。
だが、中身を取り出した稜真の頬は、更に引き攣っていった。――墨痕鮮やかに叩きつけられた『果たし状』の四文字から始まる手紙。
文字の美しさが、そこに込められた執念の重さを物語っていたからだ。
「あのぅ、先生……。コレって……」
「あぁ、お前なら分かるだろ?そういう事だ」
差し出し人の名前は見るまでもなく“梢”だ。あの時、夕樹菜が梢に話した事を、どうやら彼女は本気にしたようだ。
よって、果たし状の中には、場所と日時そして、簡素な一文が書かれていた。
稜真は純粋に巻き込まれただけ。よって文句の一つも言いたい気分だったが、そこはグッと堪えた。
そして何より、夕樹菜が「胸を貸さずに揉んで来い」と話していた内容が、こんなにも早くやって来るとは思ってもいなかったのだ。
よって実際に“胸を揉む”事はないが、オナカブラックを倒した梢の力を目の当たりにした結果を踏まえても、彼はまだ対策すら立てられていない。
それでは“胸を貸す”以前の問題だ。
しかし、逃げ出す事は出来ない。コレはこれから梢が、改めて“仲間”になる“儀式”のようなモノ……と、彼はそう考える事にした。
「会長、早くお会い出来る事を楽しみにしておりますわ」……と、達筆で書かれた一文に、恐怖心が揺れ動かされなかったワケではないが――
――前々日――
決戦は日曜日。その日は本来ならば、ミチルの勉強をみる予定の日。だからこそ「その日は出来なくなった、ゴメン」の一言にミチルは、不満げにそれこそフグのように頬を膨らませて猛反対した。
しかし結局、ミチルは折れる事になる。だが転んでもタダでは起きないのがミチルという“人間”だ。
結果的に稜真は、日曜日の決戦よりも過酷な“一つの条件”を飲まされる事で、やっとミチルを説得出来たのだ。
だからこそ、彼にとっての本当の意味での“決戦”は、金曜日だったに違いない――
――当日――
「凄っごいですねぇ!これが小森財閥の力ってヤツですかぁ?お金持ちは違いますねぇ!
ココであーし達は、かいちょおと梢ちゃんが行う、“ハジメテの共同作業”ってヤツを見られるんですねぇ」
都心から電車で北上すること約一時間。広大な敷地にそびえ立つ、全天候型複合アトラクション施設『スモールフォレスト』が指定された場所だった。
ここは複数のスポーツ関連施設や遊園地、ショッピングモールなどがある、一大テーマパークとなっている。よって休日を恋人と過ごすカップルや、子供に手を引かれる家族連れ。更には有名なアスリートや、テーマパークのマスコットキャラクター達が所狭しとごった返していた。
そんな場所に不相応な三人組が降り立ったのである――
「せんせぇ、入場券を買わないんですかぁ?」
パークエントランスを指差し、梓がまるで遊びに来た子供のようなセリフを吐いていた。ショッピングモールに行くなら入場券は不要だが、それ以外の場所にはソレが必要だ。
梓的には「二人の共同作業」よりは、テーマパークの方が目当てだった可能性は否めないだろう。
どうやら夕樹菜は、はしゃぐ梓の“お守り”に疲れていたようだ。その結果、彼女は梓の妄言を無視して“VIP”と書かれたエントランスに歩を進めていった。そんな梓は、“VIP”の文字に一際目を輝かせて夕樹菜の後を追い掛けていく。
そして稜真もまた、後を追うがその足取りは重くなっていた――
「森之木 稜真様、木之下 夕樹菜様。お待ちしておりました。こちらから直通のシャトルバスにお乗り下さい。
そちらの方はお疲れ様ですか?」
――ガビンッズドンッ
どうやら梓は梢に認知されていなかったらしい。あの時の夕樹菜は梓の名前こそ出していたが、実際に二人は会っていない。よって今回の“果し合い”に、梓がくっ付いて来るとは思ってなかったのかもしれない。
……が、丁寧過ぎる係員の無情な一言は、“VIP待遇”に目を輝かせていた彼女の表情を、一瞬で石像のように固まらせた。
要するに雷に打たれたような衝撃が「脳天からつま先まで駆け抜けていった」という事だ――
―― To the Next Take ――




