Ep70 Chapter“2” Scene“4” Cut“1” Take“3” 大暴走は唐突に
「ミチルは……ミチルは……善次郎さんが……善次郎さんの事が……好きです。大好きなんです」
それは女性からされた初めての告白だった。今まで彼に言い寄って来る女性は多かった。だがそんな女性達は、梢を始めとする“ポンコツ気質”が多かったのも、これまた事実だ。
だからこそ面と向かって、ワザワザ正面から来る直球勝負の“愛の告白”を受けた事は一度もない。
そんな彼の唯一の例外は夕樹菜だが、彼女は教師であり、学生時代に於いて“禁断のカンケイ”が許されるハズもない。
よって稜真は、その賢い頭を爆発寸前までフル回転させて対処方法を模索していた――
「分かっています。善次郎さんはメグミさんと同棲していて、二人が愛し合っているのも分かってるんです。
それでもミチルは、善次郎さんが……貴方の事が好きなんです!
ごめんなさい、お勉強を教えてもらってるだけじゃなく、変なコトで善次郎さんを困らせてしまって……。
でも、この気持ちが抑えられないんです。もう、どうしたらいいか……」
稜真はどうすればいいか分からなかった。「本当は梓と同棲しているワケじゃない」と話すことは疎か、自分の本当の名前を明かす事も出来ない。
これは完全に手詰まっている状況だった。それ以前に稜真に経験があれば――女性の扱いに手慣れていれば、なんとかなったかもしれない。よって稜真が「朴念仁だから」という“事実”もその手詰まりを助長しているのは確かだった。
ただ稜真は、ミチルの瞳が潤んでいく姿だけは見るに耐えなかった――
――その頃、壁を一枚挟んだ向こう側では――
「遅いな稜真のヤツ。なぁアイツはいつもこんなに遅くなるのか梓……って、お前は一体、何をしているんだ?」
「せんせぇ、これは「壁に耳あり、障子にメアリー」ですよぉ。知らないんですかぁ?
でもでもぉ今、ミチルちゃんの部屋で凄んごおぉぉぉぉいコトが起きようとしてるんですぅ!
これは一大事ですぅ!前代未聞のスクープですよぉ」
稜真は“学園”に提出する報告書を作らなければならない。夕樹菜はソレを受け取ってから帰るつもりだった。
別に書き上げた本人に持っていかせる事に問題があるワケじゃない。ただ夕樹菜は、その報告書を読んだ杠の驚いた顔を見たかっただけだ。
だから彼には早く戻って書き上げて欲しかったのだが、そんな夕樹菜を尻目に梓の行動は如何にも怪しかった。
「凄いコト?まさか中で、他の組織と戦っているのか?」
「確かにぃ、あの朴念仁は戦っていますぅ。
これはどちらが勝つか非常に見ものですねぇ」
夕樹菜の額に汗が滲んでいた。ミチルが持つ変質した『魔眼』。――『真眼』の力は本物だ。それを極秘裏に調査している組織がないとは言い切れない。
“孔明”の策に依って、ミチルは必要ないと判断されたからこそ、夕樹菜は“学園”側を説得し、結果として手を引く判断になったが、別の組織に目を付けられたなら話しは別だ。
彼女はのんきに隣の部屋の様子を窺っている梓に対して、少しばかり苛立ちながらも上着を手にすると、大きな足音を立てながら部屋を出て行った――
――再び、壁の向こう側――
心臓はドキドキと激しく脈打ち、その肢体は上気していく。そして……ミチルは覚悟を決めた――
メグミという存在を知りながら善次郎に告白してしまった以上、もう今まで通りの関係ではいられない。
だから覚悟を決めて勇気を振り絞り、少しだけ背伸びをして、潤んだ瞳をゆっくり閉じて善次郎に向けてその顔を近付けていった――
稜真はミチルの小柄な身体から激しく高鳴る鼓動が、ミチルに貸している胸を通じて全身に伝わって来ていた。そして彼女のはにかんだ顔が近付いてくる。
だが稜真自身の覚悟は、ミチルのように決まっていない。彼は告白されたからといって、直ぐに結論を出せるほどの経験が、その身に宿っていない。だから何をどうすればいいのか、その優秀過ぎる頭脳であっても理解が追い付けるハズもない。
このまま彼女が望む通りに、その唇を奪ってしまっていいものなのかすら、稜真は解らなかった。
だが、一つだけ確定している事実がある。
仮にそうなった時に、結果的にミチルは必ず傷付く。それが解っているからこそ、例え彼女が望んだとしてもそれを受け入れるワケにはいかなかった。
「(なんだ、結論は出ているじゃないか。ボクに彼女を受け入れる資格はない)御劔さん、これ以――」
――バンッ
急に玄関から激しい音が響いた。
「そこまでだッ!稜真!私も加勢するぞッ!
ん?敵は……どこだ?」
威嚇するような声を上げながらミチルの部屋に乗り込んで来たのは夕樹菜だ。だが彼女が見たモノは、想定していた“敵”ではなく抱き合う二人。
更に付け加えるならば、今まさにその唇が重なろうとしている瞬間だった。
逆に突然の闖入者に驚きを隠せないのはミチルであり、彼女はピシッと音を立て、メデューサに見詰められたようになっていた――
―― To the Next Take ――




