Ep67 Chapter“2” Scene“3” Cut“6” Take“4” 禁断のカンケイは唐突に
夕樹菜は焦っていた。オナカブラックと梢が戦っているのであれば、それはSNSを通じて話しが広がる可能性が高い。
そして、一番広がって欲しくない先は“学園”だ。
“学園”を取り仕切る杠は、“戦隊ヒーロー”が発見出来次第、報告書を上げるように稜真に命令を下したそうだ。
そして今回は、まさに杠が命令を下した通りの状態になったと言える。
よって……知らんぷりは出来ない。もしも報告書が上がって来なければ、稜真に対して鋭い不審の目が向けられるだろう。
そして更に付け加えるならば、その相手が“梢”だという事も大問題だ――
万が一にでも、戦隊ヒーローを倒してしまうような事態になれば、“学園”は真っ先に梢の意思を無視してでも引き込もうとするだろう。
その結果、“学園”はスポンサーである小森財閥と敵対したとしても、国に対して尻尾を振る可能性が充分にある。
一方で“学園”が梢だと認識出来なければ危険は無い。しかしその可能性は、限りなく低いだろう。
なにぶん、梢は目立ち過ぎるからだ。
しかしこのままでは、二人の内のどちらか、または二人共、こちらの陣営から外れる可能性が出て来た事になる。
それだけは絶対に避けなければならない――
「杠への言い訳を考えなくてはならないな。
こんな時、“孔明”ならどんな策を提示……いや、違う。――これは私達の戦いだ。全て“孔明”に任せるのはお門違いだ。
いかんな、頼りになる者が出来ると、いつも甘えてしまう……」
夕樹菜は頭を横に振って邪念を払おうとした。その脳裏には、自分が教師として弱かった頃の、杠に甘えている姿が浮かんでいた。
「これならいっそ、全て杠に話して、またあの時のように甘い一時を――」……と、杠のダンディな言葉で女の心を蕩けさせてくれたあの日のように――と、その目をうっとりとさせて懐かしい記憶にどっぷりと浸っていた頃、事態は急変する――
「せんせぇ!梢ちゃんが、腹黒さんを倒しちゃいましたぁ!」
部屋のドアを開け、飛び込んで来た梓のその言葉に、夕樹菜は目の前が真っ暗になっていった――
「――い、先生!木之下先生!しっかりして下さい!」
「あ?あぁ、稜真か。ほら、どうだ?久し振りに私のおっぱいでも――」
耳年増な梓は、夕樹菜と稜真の“教師と生徒”という禁断のカンケイに気付いたようだ、よって口元を押さえつつ何やらニヤニヤとしていた。
そんな梓のニヤけ顔を尻目に稜真は、夕樹菜に重大な言の葉を紡いでいった。
「オナカブラックの中の人の名前が分かりました‼」
夕樹菜はその一言で我を取り戻した……が、梓のニヤけ顔を見た瞬間、自分の失言を大いに恥じる事になる――
「あ……梓、今のは気のせいだ!私と稜真は、そんなコト、一度たりとも――」
「せんせぇも女の子で、かいちょおも、男の子だったってコトですねぇ。いいと思いますよぉ。それに、朴念仁な、かいちょおの意外な一面を知れて、あーしは大満足ですぅ!
でも、でもでもぉ!そのですねぇ、いやぁ、梢ちゃんが聞いたらどんな反応をするか楽しみですねぇ。あっ!それとも、お隣さんのミチルちゃんの方が――」
――ギィン
夕樹菜は梓の暴走を止めるため、その瞳を怪しく輝かせていた。そして梓の呼吸は、限りなく“ゼロ”へと近付いていく。
ちなみに夕樹菜と稜真は、そういう“禁断のカンケイ”になった事はない。しかし夕樹菜がその色香で稜真を、その学生時代に誑かそうと、あの手この手を使った“事実”はある。
……が、それは全て未遂に終わっている。唯一成功したのは稜真のほっぺにキスをしたコトくらいだ。
よって先の失言は、夕樹菜の妄想が孕んだ戯れ言に過ぎない。
更に稜真の名誉の為に伝えておくと、彼は“魔法使い”一直線と言える。それも偏に、“朴念仁”故であり、年齢=彼女いない歴だからだ――
「せせせ、せんせぇ、ギブギブギ……」
「梓?解っているな?余計なコトは言うなよ?ほ ん と う に 言うなよ?」
夕樹菜の『近眼』は、今まさに梓の命を摘み取ろうとしていた。梓は呼吸を“阻害”されているので、このままでは窒息するのは明白だった。
よってその命を存える為には、夕樹菜からの“脅迫”に、ただ黙って激しく頷くしか方法はなかった――
「それで、オナカブラックの名前が分かったっていうのは、どういう事なんだ?
あの男が、そう易々と名乗りを上げるとは思わないのだが?」
「えぇ。ですが、森園さんの“耳”が、スーツの声が名前を話していたのを聞いたみたいなんです」
夕樹菜は「そういう事か」と納得したが、名前が分かったところで、この広い街で接触するのは難しい。せめて、相手の顔が分からないと探しようがない。
「聞くだけ聞いておこう。スーツはどんな名前を話したんだ?」
「『シノサキ レイ』……と、言っていたそうです」
夕樹菜はその名前に聞き覚えがあった。それも随分と昔の話しではなく、つい最近見掛けた気がするのだった――
―― To the Next Take ――




