Ep62 Chapter“2” Scene“3” Cut“5” Take“1” 男の子は唐突に
「ここですわねッ!」
――バンッ
「随分と早かったじゃないか、梢」
小森財閥の情報網を駆使して稜真とミチルの“愛の巣”の在り処を見つけ出し、そこにまるで「愛人の部屋に乗り込む正妻」のような風格で乗り込んだ梢。
しかし彼女の前に座っていたのは、彼女が在学中と何一つ変わらない夕樹菜だった。
「木之下先せ……い?あれ?ここは、会長と泥棒猫の“愛の巣”と……えっ?
ま、まさか、木之下先生が、泥棒猫?!
写真は加工でアンチエイジング?」
「んなワケあるかッ!失礼にもほどがあるぞッ!」
驚きの余り、梢はお嬢様言葉を忘れてしまっていた。そして恩師に向かって“泥棒猫”呼ばわりする始末。
そんな梢に夕樹菜は絶叫していた――
「それで、なんで木之下先生が会長の家にいらっしゃるんですの?」
「梢、まさかとは思うが、卒業してから察しが悪くなったな。
昔の方がまだ……」
「昔の方がまだ、頭の回転が早かった」とでも言いたげな夕樹菜の表情は勝ち誇っている。
よってそんな事を言われたら、プライドの塊のような梢が反応するのは当然だ。
「まさか、これはブラ……フですの?
いや、でも、財閥の情報網で調べ……まさか、そこにワザとブラフを流す事で、わたくしを釣り上げたとでも言うんですの?
そうしますと、わたくしをそもそも日本に呼び戻す為の口実として、会長をダシに?」
梢の解答に、夕樹菜は満足そうに笑顔を作っていた――
―― Return to Previous Scene ――
「さて、夕樹菜殿。“在野の士”を探し出すような『魔眼』を持っている者に心当たりはございますかな?」
「あるには……ある。だが……」
時はかなり遡る。夕樹菜からの要請を受けた志は、カレンがいない時を見計らって夕樹菜の部屋に来ていた。
正確には、ミチルの部屋の前でミチルを待っている時に、拉致された……と言うのが正解なのだが、二人は知り合いなので“拉致”という表現は語弊かもしれない。
そしてカレンがいない事から、躊躇わずに“孔明”を喚び出し、乗り移らせるに至る――
「そこに隠れておられる二人も、夕樹菜殿のお仲間なら、会話に参加されては如何がかな?
「三人寄らば文殊の知恵」この時代には良い言葉がございまする。
それにミコロにこの場での記憶は何一つ残りませぬので、お二人の事を知る由もございません」
その“孔明”の洞察力に夕樹菜は脱帽する思いだった。玄関の靴は隠して、見た目上、二人がいる痕跡は失くした。あるとすれば、脱衣所へ入るドアが少しだけ開いているのと、廊下に続くこの部屋が開いているくらいだ。
よもやそこから“二人”と正確に言い当てられては、ぐうの根も出ない。
「バレてましたか。流石はかの“蜀”が誇る天才軍師。ボクは――」
「名前は名乗らなくても構いません。どうせ偽名であれば、私は聞くに及びません。
ただ、その偽名。最近、夜に徘徊している者の“信”を得るには有効やもしれませぬ」
この時はまだ、オナカブラックと最初の接触は済んでいない。よって最初に、善次郎やメグミと名乗った事すら“孔明”の入れ知恵だった事になる。
「さて、それでは『天下三分の計・弐式』の詳細をお教え致しましょう」
斯くして、壮大な計画が“孔明”の口から紡がれていく事になる――
「先ず、夜中に徘徊している“黒い人”。それを“戦隊ヒーロー”の参謀と判断しまする。よって、これを真っ先に引き込むのが上策。
他の色を先に懐柔するのが中策。ただ、彼の御仁と反りが合わない者を先に懐柔するのが下策……と、なりましょう」
「他の色……テレビでやってる“戦隊ヒーロー”の定番なら、他の色は赤、青、黄、緑、ピンク、白……くらいでしょうか?
相手が参謀役と考えると、苦手そうなのはリーダー役をやる事が多い“赤”か、女性カラーですかね?でも最近は女性カラーって“ピンク”だけじゃないらしいので、難しいですね」
“孔明”の策に声を挙げたのは稜真だ。そんな稜真を梓は真剣な顔で見ながら「男の子だねぇ」と、心の奥底では笑っていた。
「そこで、彼の御仁にはこちらが情報を掴んでいる“色”だけを示し、様子を窺うのが良いでしょうな」
その“孔明”の言葉に夕樹菜は難色を示していた――
「それじゃあ、稜真と梓は引き続き、他の色の捜索がメインになるな。だが、そうなると圧倒的にこちらの戦力が足りない」
言葉を紡ぐ夕樹菜の表情は暗い。何故ならこちらは夕樹菜含めて三人。そして夕樹菜は“学園”にバレては駄目だし、そもそも教師としての仕事がある。かと言って稜真と梓も“学園”には定時報告の義務があり、自由というワケではない。
「あのぉ、せんせぇ。他の生徒会役員のメンバーに声を掛けるっていうのはどぉなんですかぁ?」
それは何気ない梓からの提案だった。梓が話した“生徒会役員”は当時の稜真を会長とする役員達のコトを指している。
梓はそれを再びこの場に集めようと提案したのだった――
―― To the Next Cut ――




