Ep61 Chapter“2” Scene“3” Cut“4” Take“1” 恐怖のデジャヴは唐突に
三国 志は、最近ずっと憂鬱だった。もうかれこれ一週間以上、ミチルの態度がそっけないからだ。いや、よそよそしいと言った方が正確かもしれない。
むしろ、その両方かもしれない。
ミチルの態度は日によって変わっていた。そっけない日もあれば、よそよそしい日もある。まるで学食の日替わりランチのように、態度はコロコロと変わっていた。
志には、それがミチルの態度が急に冷たくなったように感じられた。
以前なら志が後ろから抱き付けば、顔を真っ赤にして怒るか嫌がるか……もしくは「あーつーいー」とダラけるかのどれかだった。
だが今はそれすらもなく、抱き付くとチラっとチラ見して終わりだ。
よって志は、嫌われてしまったのかとも考えたが、彼女には“超”が付くほどの前向き思考がある。
だから今日もいつも通りにミチルに抱き付くのだった――
ミチルの猛勉強は続いていた。初めて善次郎が部屋に来た日の胸の高鳴りを励みに、必死にペンを奔らせていた。よって夏の終わりにある試験まで、“推し活”はお休みする事にした。
しかし既に今のミチルには、新たな“ランポーくん”がいる。だからこそ“推し活”をお休みしても、ミチルは耐えられた。
ミチルは元から三次元男子に興味があるとかないとかではなく、ランポーくん一筋が過ぎる余り、男子に魅力を感じなかっただけなのだ。しかし、あの日の出会いはソレを一変させた。
そしてミチルにとっての、新たなランポーくんこと“善次郎”と、一緒に暮らしている“メグミ”は、ミチルの部屋をちょくちょく訪ねて来ている――
出会ったばかりの頃は気付きもしなかったが、メグミはミチルと変わらないくらいに小柄だった。普段出歩く時は厚底ブーツで底上げするくらいの身長の小ささで、ミチルは彼女に共感を得ていた。
だが、唯一共感出来ない場所がある。
身長は同じくらいなのに対して、ミチルは平原。メグミはメロン。そう。“胸”の大きさだ。
そしてミチルは考える。善次郎とメグミが同棲しているのであれば、やはり胸の大きさで軍配が上がるのではないか……と。そうなるとミチルには絶対に勝ち目がない。
しかしランポーくんは“紳士”だ。“紳士”たるもの、胸の大きさで女性を判断するだろうか?否。“紳士”であれば見るのは外見よりも、むしろ内面。
よってミチルは色々と堂々巡りに陥りながらも、最終的には都合の良い前向き思考によって、内面を磨く努力を始めた。
それが先ずは勉強であり、次に何事にも動じないコトだった――
「一体、どうすればいいんでしょう……ミコロ、ミチル先輩と仲良くなりたいだけなんですけどぉ……。やっぱり嫌われてしまったんでしょうかぁ」
その日の志はいつも通りに学校からの帰り道を歩いていた。電車を降り駅から出て、人気のない方に向かって歩く。
駅周辺に以前ならたむろしていた不良達の姿はない。むしろ、今日は人が少ないようにも感じられた。
ここで志は、廃墟の街に佇む人影を見た気がした。今は夕方の西日が強く差し込んでいる。逆光が見せた勘違いかもしれない。
志はふと自分の足元を見た。すると影が伸びて来ていた。そうそれは、誰かが近付いて来ている事を意味している。
彼女は顔を上げるが逆光のせいで相手の顔は見えない。人気の無い街ですれ違う人に心当たりはない。あるとすれば、チノイロレッドかカレンくらいだ。
彼女の脳裏に嫌な思い出が蘇る。それと同時に脚が震える。志は来た道を一目散に逃げ出したかった。
影は更に伸び、もう彼女の下半身を覆い隠そうとしていた――
「サーセン、ちょっといっすか?」
「ヒッ!」
逆光で顔はよく見えないが、顔のパーツの至る所に輝く、黒ずんだシルバーだけはよく見えた。そこから判断するに、ヤンキーかチンピラ。
そんな男に声を掛けられた志は短い悲鳴を上げてしまい、咄嗟に口を押さえた。
「怖がらせちゃったっスか?サーセン。オレ、道に迷っちまったみてぇで、教えて欲しいんスよ」
そう言うと彼は屈託の無い笑みを浮かべた――
彼は最近、ここに引っ越して来たのだという。だがこの街は廃墟街。どこをどう歩いても景色が変わらず困っていたそうだ。
彼は心なしか志が、緊張しているように感じられた。だからその緊張を解そうと自分のバイト先にいる、“ちっちゃい先輩”の話題を振った。
意外にもその話題に食い付いた志と、見た目ヤンキーは和やかに夕暮れの廃墟街を歩いていく。
「オネーさん、あざっした!お陰で家が分かったっス!どうっスか?中で茶でも飲んで行くっスか?」
二人は和やかに話しながら歩いていたワケだが、志の警戒心はそこまでユルユルではない。
彼女としてはもう少し“ちっちゃい先輩の話し”を聞きたかったが、どうやら警戒心が勝った様子だった。
その時、ヤンキーの住んでる家の玄関が、耳に残る音を立てて開いた――
それは一瞬だけだったが、志の瞳には確かに“青い人”が映し出されていた――
―― To the Next Cut ――




