Ep59 Chapter“2” Scene“3” Cut“3” Take“1” お嬢様の怒りは唐突に
「やっと着きましたわね。久し振りの日本ですわ。
さて、お迎えはどちらにいらしてるのかしら?」
とても日本人とは思えない容姿をしている女性が、第二新東京国際空港に降り立った瞬間だった――
その髪色は暗めのプラチナブロンド。瞳の色は深い橙色――
ここまでなら、「髪を染めて、カラコンを入れた日本人」で通用するかもしれない。だが、問題はその先の“容姿”だ。
先ずは髪の毛。前髪は左右にある髪束がクロスしている。そして一際目を引くのが前髪のその左右にある、通称“お嬢様ドリル”と呼ばれる縦ロール。続けてサイドにはキメ細かく編み込みの“層”が成されている。後ろ髪はサラサラストレートの、腰まであるスーパーロング。
更に、着ている服も含めて“更なるその先”がこれまた凄い。
中世貴族を思わせるような黒く、光沢のある“Aラインドレス”をベースにした、“エージェントスタイル”のような服装。
纏ったオーラが、誰も寄せ付けない冷たさを醸し出している事から、只者では無いと直感させられる。
ついでに容姿を反映する、その口調。
総合的に見て初めて彼女を見た人間は、「どこの国のお貴族様がやって来たんだ?」と勘違いするコト間違い無しである――
「梢お嬢様。こちらに」
彼女こそが小森 梢であり、稜真が優勝した回、第二十回目“チェラビムス”の準優勝者になる。そして、世界有数の大企業“小森財閥”のご令嬢でもあるので、「お貴族様」という表現は、強ち間違ってもいない――
梢は送迎車に乗り込むと、そのまま深い溜め息を付いた。きっかけは二週間前に梓から送られて来た、一通のメール。
そこに添付されていた写真を見て、梢がその手をワナワナと震わせ、スマホの画面がピシッと悲鳴を上げた事に始まる。
結局彼女は、その写真を見てしまった以上、いても立ってもいられなくなり、留学先に休学届けを出して日本に帰って来てしまったのだ。
しかし衝動的に帰って来てしまった以上、彼女の父親をちゃんと説得出来なければ、スグにでも留学先へととんぼ帰りさせられてしまうだろう。
それでは意味がない。日本まで片道十二時間以上掛かっているのだから、往復でまるっと一日以上を無駄にする事になる。そんな最悪タイパは認められない――
少なくとも梓に詰め寄り、この写真の意味を問い詰め、何でこんなコトになっているのかを詰問し、激しく追及しなければ気が済まない。それでは泣く泣く身を引いた挙句、忘れる為に留学を選んだ自分が、凄く馬鹿馬鹿しく思えてしまう。
そうでなければ、掛けたコストにも見合わない。
そう。梢の手には愛しの稜真と、紫髪のお団子頭の女が仲良さげに視線を合わせている写真があった――
要するに梢は、誰とも知らない女に、自分が惚れ込んだ稜真が取られたと思ったのだ。更に付け加えるとすれば、その稜真が、梓と一緒の部屋で暮らしている事も知らない――
「あの時、わたくしが勝てなかったばっかりに……」
梢は苦々しい記憶が込み上げて来ていた。“学園”に所属している三年間で、一回でも優勝出来れば、望む願いが叶うとされる“チェラビムス”。
だが梢はあと一歩というところで三年間、勝利を掴めなかった。
更に言えば、学園生活三年間を通して、主要五教科と呼ばれる試験では彼に、一度たりとも勝てたコトがない。
故に彼女は常に万年二位に甘んじて来たのだ。
二位である以上、生徒会も“副”会長止まり。だから一縷の望みを懸けて挑んだ“チェラビムス”もこれまたあと一歩のところで、稜真を超える事は出来なかった。
「稜真を自分に振り向かせてみせる」為に三年間必死に頑張ったのに、写真の中の女と稜真は随分と仲が良さそうだ。
――グシャッ
メールからワザワザ印刷した写真を、梢は握り潰していた。その写真を見る度に彼女のプライドはズタズタに切り裂かれ、その深い橙色の瞳は、淡く儚い恋心を怒りに焚べて、激しく燃やしているかのようだった――
「あ……わたくしとした事が。せっかく印刷した会長のご尊顔を握り潰してしまうなんて……はぁ」
「お嬢様、間もなく本社ビルに到着致します。会長がお部屋にてお待ちになっておられますので――」
「会長が待っている」その一言が、梢を非常に憂鬱にさせた。若くして急死した先代会長の跡を継ぎ、早々に社長を梢の兄に譲り渡した父親――小森 楓梢。亡くなった先代会長が始めた商いを、楓梢がその手腕のみで世界有数の大企業に育てあげた。
だからこそ彼の眼力は鋭く強い。
彼は『魔眼』こそ持っていないが、その有用性にいち早く気付き、“学園”にも多額の出資を行っているとも聞く。そしてその見返りに、多くの卒業生達が“小森財閥”の礎を支えてくれている。
『魔眼』ではない『慧眼』を持つ“傑物”とも言える父親。そんな強敵を説得しなければならなくなった自分の“衝動”を、少しばかり後悔しつつ彼女は、会長室へと向かって歩を進めていく――
―― To the Next Take ――




