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ミツルとミチルとミクニとミコロ 〜 Romance Trium Regnorum et nobilis gladius 〜  作者: 硝酸塩硫化水素


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Ep58 Chapter“2” Scene“3” Cut“2” Take“4” 近い距離は唐突に

 ミチルは勉強に身が入らなかった。善次郎(ぜんじろう)の横顔に見惚れ、彼の声に聞き惚れ、何から何までランポーくんにそっくりな善次郎に、完全に惚れ込んでしまっていた。


「大丈夫、御劔さん?」


「はひぃ!だだだ、大丈夫でしゅ」


 善次郎は勉強を教えているが、ミチルの態度が上の空な事に気付いていた。だが、その原因が自分にあるとは()()()()()()()思っておらず、「バイト帰りで疲れているのだろう」くらいにしか考えていなかった。


「あ、あの、善次郎さん」


 顔を赤らめたミチルが、善次郎の瞳を見詰めていた。


「どうしたの?顔が赤いよ?熱あるんじゃない?今日はここまでにして、ゆっくり休んだ方がいいよ」


 彼の顔が近付いて来る――


 ミチルの顔は更に赤くなる――


 ――ピーンポーン


 インターホンが鳴った。咄嗟に我に返ったミチルは、顔をパタパタと仰ぎながら、玄関へと向かった。


「ミチルちゃん、ゼンちゃんまだお邪魔してるぅ?」


「メグミさん!はい、まだ教えてもらってます」


 ミチルの淡い初恋は咄嗟に嘘を吐かせてしまった。まだ二人っきりでいたかったからだ。


「メグミ、彼女、顔が赤いみたいなんだ。熱があるかもしれない。

 だから今日は切り上げてボクはそろそろお暇するよ」


「顔?ははぁん

 さてはミチルちゃん。ゼンちゃんに惚れたぁ?」


 リビングにいる善次郎に聞こえないように、メグミはミチルの耳元で囁いていた。


「ひゃう!そそそ、そんな事……ごにょごにょ」


「そかそかぁ、ミチルちゃんは、ああいうのが好みなんだねぇ。うんうん若人よ、いいねぇいいねぇ」


 ミチルは耳まで真っ赤になって俯いてしまった。口はモゴモゴとボソボソと何かを呟いているが、それはもう言葉にすらなっていない。


「メグミ、どう?彼女、大丈夫そう?」


「ひゃわわわッ」


 いつの間にか善次郎はミチルの背後にいた。驚きを隠し切れないミチルは動揺の余り、変な声を漏らしていく。

 こうなってしまってはもう、(善次郎)の顔すら見る事は出来ない。ミチルは恥ずかしいが過ぎて“恥ずか死”しそうなほど、茹だっていたからだ――



「ぜぜぜ、善次郎さん!れれれ、連絡先を教えてもらえませんか?」


 ミチルはひと握りの勇気を振り絞って、玄関から出ようとする善次郎に、今出来る精一杯の“告白”をした。そしてその善次郎が、「うん、いいよ」と解答すると、天にも昇る気持ちで背中に翼が生えたようだった。


「それじゃあね、御劔さん」

「ミチルちゃん、まったねぇ」


 ミチルは二人の後ろ姿を見詰めていた。しかし「あれ?」と疑問に思ったのも束の間、その顔は驚愕に支配されていく。

 何故なら二人揃って同じ部屋――即ち、ミチルの隣の部屋に仲良さげに、喋りながら入っていったからだ。

 そしてミチルは玄関で膝から崩れ落ちた。

 「ランポーくんが、ランポーくんが、ギャル好きだったなんて……」と嘆きながら。


 その後のミチルは借りたノートを返すためにも、必死で“猛勉強(ノートに八つ当たり)”していた――



「それで森園さん、どういうつもり?御劔ミチルにはもう関わらないって、木之下先生が決めたんじゃなかったっけ?」


 ミチルの隣の部屋。要するに森下メグミと楠 善次郎が入っていった部屋。


 二人はミチルについて、今後の接し方を話し合っていた。


「かいちょお、夕樹菜せんせぇはそう言ってましたけど、それならなんでミチルちゃんの隣の部屋なんて借りたと思ってるんですかぁ?」


 この部屋を借りたのは夕樹菜だ。それは偏に森之木(もりのき) 稜真(りょうま)と森園 梓の活動拠点にする為。

 そして二人は、定時連絡だけは欠かさずに入れている。それは偏に学園側から疑いの目を持たれるワケにはいかないからだ。


「御劔さんに他の勢力が絡んで来た時、対処する為……かな?」


「多分、せんせぇならそんな考えだと思いますぅ。で・す・が、あーしは気付いてしまいましたぁ。えへへ」


 梓は意味有りげな笑みを浮かべた。彼女は昔から『耳』がいいが、「勘」も鋭い。特に人の恋路については一級品の鋭さを持っていた。そしてその時はだいたい、こんな不敵な笑みを浮かべ、ニヤニヤしていたのは昔から変わらない梓のクセだ。


「何に気付いたかは知らないけど、だからさっきインターホンを鳴らしたの?『耳眼』を使ってこの部屋から聞いて様子を伺ってたってコト?

 まぁ、彼女、本当に体調悪そうだったから助かったけど」


「ちっちっちっ。これぞ正に、「壁に耳あり、障子にメアリー」ですぅ。

 でも、かいちょおは本当に鈍いですねぇ。鈍感が過ぎて朴念仁ですぅ。本当に(こずえ)ちゃんが浮かばれませんぜ、かいちょお。草葉の陰で泣いてるんじゃないですかぁ?」


 突然、梓の口から出て来た懐かしい名前に、稜真は更に混乱していった。

 小森 梢――彼女は稜真と同じ生徒会役員であり、当時の副会長をしていた生徒(クラスメイト)だ。

 だが、学園を卒業してからは一度も会った事はなく、連絡をした事もない。


 そして、梓が気付いたコトを聞いた稜真は、本当に女心が分からない“朴念仁”だった――



 ―― To the Next Cut ――

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