Ep53 Chapter“2” Scene“3” Cut“1” Take“1” 交渉カードは唐突に
「初めまして。私が木之下 夕樹菜よ。この子達から話しは聞いてるかしら?」
ここは夕樹菜が学園に秘密で借りている部屋。よって上司であり、幼馴染みとも言える杠にも明かしていない。
そこに今、夕樹菜の他に森之木 稜真と森園 梓。更には“オナカブラック”がいる。
これは、稜真達がオナカブラックと接触してから二日後の夜の事だ――
「聞いているのは、貴女が新たなに且つ、秘密裏に創る組織に参入して欲しいという話しだが?」
「えぇ概ねあってるわ。それでどうかしら?こちらには『目』と『耳』がある。貴方の仲間を発見出来ると思うけど?」
夕樹菜はこの交渉が上手くいくとはハナから思っていなかった。何故なら、夕樹菜の仲間はこの二人だけだからだ。
よって、“オナカブラック”がこちらの戦力を聞き「まるで話しにならん」と、決裂する事を前提に夕樹菜は交渉のテーブルに付いている。
ちなみに他に仲間として候補にあるのは、現時点で“三国 志”だけ。それも今回の『天下三分の計・弐式』の発案者である“孔明”を宿した“志”だ。
よって夕樹菜は、学園の関係者に限定するなら、稜真と梓にしかまだ声を掛けていない。実際に学園で勧誘活動をすれば直ちに杠の耳に入る。
流石にそれはヤバい。
だがそもそも、夕樹菜は生徒を巻き込むつもりはなかった。
更に、準備期間をそこまで用意出来ていない事も大きな要因だ。“学園”では普通に教師として働いている以上、自由に使える時間は限られる。そんななけなしの時間を使って部屋を借り、酒に溺れる生活から脱却出来ただけでも以前とは比べられない進歩だろう。
よって仲間集めは後回しにして、二人には“ジャスティスファイブ”の捜索を優先してもらっていた。
「では聞こう。私以外の仲間が見付かった……と?」
「そう来たか」……と、夕樹菜は内心、ほくそ笑んでいた。やはり“彼”は、「自分達を利用する積もりだ」と取れる発言だったせいだ。しかしそれは想定内の範疇だ。利害の一致で手を組むなら相応の対価は求められて当然。
よって、こちらは出来たてホヤホヤの情報を提示する準備をして正解だった事になる。
「こちらには“カード”がある。その前に、一つこちらも聞きたいが、いいかな?」
「ほう?手札がある……と。それは、その“情報”と交換という事か?」
これは二人の交渉。だが、一介の数学教師に過ぎない夕樹菜には分が悪いビジネス。これが杠なら、もっと良い条件を引き出せた可能性は否めない。
だが、『天下三分の計』に乗せられてしまった手前、引く事は出来ない。
「いや、こちらが聞きたい事は、そちらにもメリットがある。だから、こちらの“カード”は切れないな」
「ほう?それならメリットがあるかはこちらが判断するが?」
「食えない相手だ」それを口に出す事はないが、少なくともこの男が“ジャスティスファイブ”の参謀であり、頭脳である事は間違い無い。
ならば、この男さえ落とせれば、他のメンバーも引き込める公算があるというモノだ。
「貴方は『魔眼』について知らないって聞いたけど、その情報は欲しくないかしら?」
「ふむ。この世界の“世界観”の話しか。確かに興味はある。
しかし……だ。私がその『魔眼』とやらについて知らない事が、そちらに何のメリットに繋がる?」
その言葉こそ夕樹菜が求めていたメリットだった――
「ちょっと、稜真!それホントなの?」
「えぇ飽くまでもボクの推測ですけど、あの戦隊ヒーロー“ジャスティスファイブ”は、この世界では考えられない技術力を持っています。
だから多分です。多分ですよ?“異世界転移”ってヤツじゃないですか?」
夕樹菜は頭を抱えたくなっていた。確かに“ジャスティスファイブ”の力は人知を超えている。報告書にあった“タベスギイエロー”の破壊力を見ても分かる。
一言で纏めるなら、「オーバーテクノロジーが過ぎる」だ。
だが現代日本は、否、現代の世界で“証明”が出来ない夢と魔法のファンタジーなんて有り得ない。科学文明が進んだ世界で、“異世界転移”なんて小説やアニメの中だけで充分だ。
数学者は科学者だ。そんな非現実的な……いや、違う。そもそも、『魔眼』を齎した『イジュウランスインの光』からして何一つ証明されていない。
それなら稜真の立てた仮説も否定出来る要素はない。
だが逆に『イジュウランスインの光』は“歴史”だ。それを知らないなんて事が本当なら、それこそ“異世界転移”と言われたって可怪しくはない。
それなら“ジャスティスファイブ”の持つオーバーテクノロジーは独占してこそ意味がある。
これは戦争の抑止力になる第三組織を構築するという“孔明”の策に於いて、必要不可欠な存在という事を示す指標だった――
「それじゃあ今から私の『魔眼』と、貴方の着ているスーツの性能比べをしないか?」
“彼”が乗ってくるか否かは五分五分。否、計算上はそれよりも確率的には低かった――
―― To the Next Take ――




