Ep52 Chapter“2” Scene“2” Cut“3” Take“6” 渦巻く不安は唐突に
何かが軋む音で志は目を覚ました。ムクっと上半身を起こし、まだ眠い寝ボケ眼を擦ろうと上げた手を見て、「ワぁッ!」と声を上げた。
「ななな、なんでミコロ、裸なんですかぁ?!
ホッ、良かったぁ。下着は着けてる……って、そぉじゃなぁい!
カレンさ……ん?わぁッ!ビビビ、ビックリしたぁ!
えっと、何してるんですかぁ?」
この時の志は相当混乱していた。一つ目に、自分が下着姿だった事。二つ目に寝ているハズのカレンがいない事。そして、三つ目に“アタマピンク”が、自分のパジャマを持ってその匂いを嗅いでいた事。……だ。くれぐれも、“アタマピンク”が居たから……ではない。
「あ、ミコロっち、起きた?ってか反応良過ぎじゃん!マジウケるんですけど!」
「起きた?じゃないんですぅ!カレンさん、なんでミコロのパジャマの匂いなんて、嗅いでるんですかぁッ!」
カレンとしては、「匂いフェチだから」とは言えない。ただ普段から同じベッドで眠る際に、抱き付いてくる彼女の匂いが好みの香りだったとか、言えるハズもない。だからスーツに記録してるとか絶対に話せるハズもない。
そこまで“変態アピール”がしたいワケではない。
「いいじゃんいいじゃん、そんなコト!それよりもミコロっち!
裸で寝ると風邪引いちゃうぞッ!だから、着替えさせようと思ってアタシが部屋から持って来ただけだし!」
「なんで裸だったか?」という疑問は、暴風のようなトンデモ理論に吹き流されていった。よって志は、その助言通りにカレンが差し出したパジャマを受け取ると、とても恥ずかしそうに着ていった――
「えっとぉ、カレンさん……ですよね?」
何食わぬ顔でセンサー越しの映像を無事に記録し終えたカレンは、志からの質問にきょとんとしていた。
……が、すぐにいつもの感じでアピールを始めていく。
「モチのロンでアタシだし!アタシ以外のナニモノでもないっつーか、いや、違うし!そうじゃないし!
アタシは可憐でビューティー清純派正統ピンク系ヒロインのアタマピンク!
って、こんな感じぃ?」
決めポーズ付きの登場シーンを演じたカレンに対して、ぱちぱちぱちぱちと拍手とはいい辛い音を、志は奏でていた。
だがその表情に“戦隊ヒーロー”に対して子供が抱くような憧憬は現れていない。要するに冷めた表情というヤツだ。
「えっ?それだけ?なんか反応冷めてない?超ウケるんですけど?で す け ど?」
とても気マズい空気が流れていた。カレンは話しを切り出すタイミングを逸した挙句、今回の事態を招くに至る。逆に志はスーツの中のカレンが本当に無事なのかがまるで分かっていない。
「だって、ミコロ学校に行ったはずなのに……気付いたらカレンさんが、血塗れで倒れてて……。
もう、死んじゃうんじゃないかって思ったのに、変なベルトを付けてボタン押したら、カレンさんの姿が変わっちゃうし……誰にも相談出来ないし、カレンさんが救急車は呼ぶなって言ってたから、家の中に運んだんだけど、全然目覚めないし……ミコロ……ミコロ、どうしたらいいか分からなかったんだよぉ。うわあぁぁぁぁん」
それは志の中に渦巻いていた不安が涙を伴って、まるで堰を切ったように濁流となって吐き出された瞬間だった。
「ミコロっち……。アタシはだいじょーぶぃ!ミコロっちのお陰で、身体もこのとぅーり、ピンピンしてるッ!
だから泣かないでミコロっち。心配掛けた事は謝るからさ。本当にゴメン、ミコロっち」
「カレンさん、身体はもう平気なんですかぁ?それじゃあ今すぐ、元のカレンさんに戻って下さいッ!」
カレンは二つ返事で了承し、鎧の着装を解除していく。
そして再び、志の張り詰めた緊張感をブチ壊すような軽快な音が、リビングの中に木霊していった――
しかし、変身が解かれた瞬間、志はみるみるうちに顔を赤らめ、咄嗟に視線を下げていった。
そして、一言。「ななな、なんでハダカなんですかぁ!」と叫んでいた。
まぁ、カレンの要望通り、下着まで全てナイフで切ってまで脱がしたのは志なのだが、あの時はイッパイイッパイで、その事をスッカリきっかり忘れていたのかもしれない。
よって、カレンが朦朧とする意識の中でもその事を覚えていたなら、ツッコミ役を任される場面だろうが、そもそもカレンは“シリガルセクハラ”なのだから、服を着ていようと着ていなかろうと何も問題はないらしい。
「ははぁん、さてはミコロっち。アタシのナイスバディが眩しいんでしょ?マジウケる。
ほらほらぁ目を背けないで、もっとよく見て!そしてアタシの胸に飛び込んで来てもいいんだからッ!」
さて、これからカレンは小一時間ほど、志からお説教される事になるのだが、カレンは聞く耳を持っていなかった。
斯くして二人は、お互いの持っている“力”の事は何も話さず、この歪な共生カンケイという“日常”へと戻っていった――
血塗れの制服の事など、サッパリ忘れて――
―― To the Next Scene ――




