Ep50 Chapter“2” Scene“2” Cut“3” Take“4” ひゃくとーばんは唐突に
「えっ?! なに……コレ?あれれ?ミコロは確かぁ、学校に行っ――
違う!そうじゃないよぉッ!今はそんな事をしてる場合じゃなぁい!
カレンさん!カレンさんッ!しっかりして下さい!起きて下さぁいッ」
空には容赦無く照り付ける太陽、地面には赤黒い血溜まり。そして、腹にナイフと言う名の凶悪な赤子をそのお腹に孕んだカレンの姿。
志は意味が分からなかった。なんでカレンが血溜まりの中で倒れているのか。
そして、なんで自分の手が真っ赤に染まっているのか。
「そうだッ!救急車!救急車って、“ひゃくとーばん”だっけ?急いで電話を――」
「待って、ミコロっち……ソレ呼ばなくていいから、まずはアタシ……の服を脱がせて欲しい……な」
志からすれば二度目となる「意味が分からなかった」だ。
幾ら陽射しが暑い夏とはいえ、大怪我してる人間から庭とはいえ外で「服を脱がせて欲しい」なんて言われれば、「冗談にもほどがある」としか言えないだろう。
カレンなら色々な意味で、ヤり兼ねない言動を今まで見て来てはいるが、こんな状態で“発情”しているとは流石に思えなかった。
「ミコロっち、よく聞いて。このままじゃ……アタシは遅かれ早かれ死ぬ。だから……助かるには服を脱ぐ……しかないの。
でも、今のアタシは……腕に力が入らない。だから、お願い……ミコロっち……」
そこにいつもの軽薄さはない。あるのは今にも立ち枯れそうな弱々しい息遣いだ。
「わ、分かりましたぁ。遠慮しないで脱がしますぅ。で、でもでも、変な気を起こさないで下さいねぇ」
「ははッ、ウケる。
脱がし辛かったら、お腹……のナイフを抜いて……それで切って……」
滴る汗が目に沁みる。頬から顎を伝わり落ちる雫がカレンに落ちて弾け、赤を滲ませ広がっていく――
「カレンさん、終わりましたぁ。この後は“ひゃくとーばん”でいいですかぁ?」
「あはは……血塗れの……産まれたまんまのアタシと……ヤりたいってヤツが……いるな……ら、その根性に免じ……て、イッパツくらいな……って、ミコロっち、アタシを笑い死にさせた……いの?」
笑い死にする前に大量出血で死にそうなカレンだが、志の表情は必死そのものだ。だから本当に警察しそうな勢いだった。
そもそもこの状況で「警察じゃなくて救急車やろがい!」と、ツッコミを入れる猛者は誰もいない。
「それじゃあ、このあとどうすればいいんですかぁ!
カレンさんが、カレンさんが、可怪しくなっちゃいましたぁ。うえぇぇぇん」
「ミコロっち……アタシのバッグを取って。中……身をひっくり返し……ていいか……ら。その中……から――」
志はもう、言われるがままに行動するしかなかった。だからカレンのショルダーバッグを逆さまにして飛び散る中身を確認していく。
志が使ったコトが無いような“オトナ”アイテムが散乱したその中で、カレンに言われたモノを見つけ出し、カレンの元に戻った時にはもう既に虫の息になっていた。
「そした……ら、そ……れを、アタ……シの、おな……かのう……えにおい……て、うえの……ボタン……をおし……て」
志、意味が分からない“第三弾”が始まった。彼女は拾って来た変なベルトをカレンのお腹の上に乗せ、言われた通りにボタンを押す。
志としては、そんなコトよりも救急車を呼ぶべきだと考えたが、死に瀕したカレンの頼みなら断れない。もうカレンの目は虚ろで、握るその手に力は入っていない。今から救急車を呼んでも手遅れになるのは明白だ。
だから神にも祈る想いでボタンを押した――
――しゃららららーん
ベルトから緊張感の無い軽快な音が木霊していく。志は驚きの余り、目を白黒とさせ、パチパチまばたきして、ゴシゴシと擦った。
そう、血溜まりに沈む一糸纏わぬ姿のカレンが、“チノイロレッド”のように変身したのだ。
「カレンさんが変身したぁ!凄い凄いですぅ!
でも、ケガは大丈夫なんですかぁ?もしもーし。カレンさーん、起きてくださぁい!」
――個体名、「野々山カレン」ノ損傷ヲ確認。“生命保護機構”ヲ、緊急モードデ、開始シマス――
呼べど叫べど揺すろうともカレンは目を覚まさなかった。よって志は、このまま外に放っておいたら熱が籠って熱中症リスクが高まるとでも考えたのだろう。その結果、カレンをズルズルと引き摺って、ガンガンとそこかしこにぶつけながらも、必死に家の中へと連れて行ったのである――
――一部、アクティブスーツノ微小ナ損傷ヲ、確認。“自己修復機能”ヲ、開始シマス――
斯くしてその日、志は初めて学校をズル休みした。学校には連絡を入れなかったが、誰も彼女が教室に来ていない事を心配するクラスメイトはいなかった。
ただ唯一、ミチルだけは普段なら登校中に必ずと言っていいほど現れる志が、その姿を見せない事に少しばかりの違和感を覚えていた反面、“母親同伴見守られ小学生”と言われない事に関してはルンルン気分だった――
―― To the Next Take ――




