Ep49 Chapter“2” Scene“2” Cut“3” Take“3” 謝罪とキスは唐突に
カレンは焦っていた。それは相手を傷付けたくないからではない、その志が強過ぎるからだ。
ジャスティスファイブの中で、鎧を着装せず、生身のままアクトウダンの戦闘員と互角に戦えるのはカレンしかいない。
それほどまでに強いカレンが完全に圧されていた。志がその手に持っているのはナイフ一本。その刃渡りから大体の間合いは掴めている。それなのに……だ。
そのナイフはカレンがいくら回避に専念しようとも空を斬り裂かず、確実にカレンの服と白い肌を赤く染めていった。地面には滴り落ちた跡が、赤黒いシミとなりその数を増やしていく。
肩、腕、太もも、胸、脇腹……どれも致命傷にこそなっていないが、このままじゃいずれ殺される。
こうなる前、明らかに志の様子はどこか可怪しかった。その理由を知るまで、死ぬに死にきれない。そして“ばすまいけっと産イケメン”と、ヤってヤってヤりまくり快楽に溺れて果てる前に死ぬのは、その理由を知る以上にもっといただけない。
そんなカレンは命の危機に晒されようと、志相手に本気になるつもりはなかった。殺されてもいいとは思わないが、出来れば傷付けたくない。今まで通りの“カンケイ”を保っていたい。
そんな逡巡を抱えながら、カレンは回避に専念していく――
志は焦っていた。どうにも可怪しい。その手に握るナイフは確実にカレンの肩を貫き、腕の腱を断ち、太ももに奔る大動脈を切り、心臓を穿ち、脇腹を抉ったハズだった。それなのにその手応えは明らかに軽い。
現状で志は、その瞳に宿る『偽眼』を使っている。志が使う時と違って、“Set”も“Servaconstituer”も必要ない。威力を増す為に“seconds”だけは必要だが、それすらも口に出さない。
ナイフを“英傑”達の得物に見立て、“子龍”の突き、“雲長”の払い、“孟起”の薙ぎ、“漢升”の射、“益徳”の打突。それら全てが致死の一撃であるにも拘わらず、そのどれもがカレンの命を握り潰せずにいた。
何度もやればカラクリがバレる。相手が自分の『偽眼』の力を知らないからこそ、今だけは優位に立てているが、バレれば一方的に蹂躙されるのは自分の方。
手足の動かし方、体幹の流し方、体重移動の流麗さ。それら全てが一流の“殺し屋”のそれだ。武術の達人の動きではなく、確実に人を殺めるシリアルキラーとしての動き。それをカレンは行っている。
だからこそ焦っていた――
完全に焦らされた方が負ける。逆に言えば、焦らし切った方が勝つ。
――ドスッ
「くうぅぅ、キくわぁ。でもやっと捕まえた。ミコロっち、ごめんなさい。貴女の秘密を見ようとして。
もう二度としないから、許してくれると嬉しいな」
カレンは自分の腹でナイフを受け止める選択をした。そしてソレが突き立てられたまま志を優しく抱きしめ、ほっぺたにキスをした。
志は混乱した。両親からの暴力で歪んでしまった彼女は根っからのシリアルキラーではない。目的の為に刃を振るうだけ。それが凶刃であったとしても、目的の為の手段を選ばない。
しかしそんな志から見て、カレンは正真正銘のシリアルキラーだった。それなのに進んでその刃を受け、あろう事か過ちを認め謝ってきた。
混乱せずにはいられなかった。
だが、カレンの腹の傷は浅くない。このままでは助からない。
志は志がカレンをどう思っているか知っている。だからこそ、秘密を知られる前に殺して裏庭に埋めようと考えていた。そうすれば志が知る事はない。
前と同じように「突然いなくなった」と悲しむ事はあるかもしれないが、今はミチルがいる。カレンの代替品は既に見付かっている。
「ミコロっち、なんで泣いてるの?アタシを刺しちゃったから?それならマジウケる。
だ〜いじょぶじょぶ!アタシはこんなんじゃ死なないように出来てるし!」
腹に深々とナイフが刺さっているからこそ、出血量は少ないように見える。だが、その痛みは尋常ではないだろう。
それなのにカレンは平気な顔をして志の頭を撫でていた。
「分かり……ました。あたしはアナタの罪を今回だけ見逃します。
あとはアナタの知ってるココロ次第。アナタの知らないミコロは、引っ込む事にします」
「ココロ?なぁんだミコロっちも、アタシと同じだったのか。それじゃあ、ココロっちはアタシに任せて。
でもアタシは――」
志はカレンの最後の言葉を聞いて、涙が一気に溢れ出していた。カレンはどうやら気を失ったようだ。だが、まだ死んではいない。埋めるワケにはいかない。
だから、この後の事は志に任せる事にした。志は血で汚れた自分の手と、血塗れのカレンを見て錯乱するかもしれない。
でもまぁ、その時はその時だ。錯乱して壊れたら、またイチからココロを作り直すだけ。また新しい自分に仮面を被せるだけ。
そんな事を考えながら志の意識は遠ざかる。カレンの最後の言葉を思い出しながら――
「アタシはミコロっちとも仲良くしたいな」
―― To the Next Take ――




