Ep48 Chapter“2” Scene“2” Cut“3” Take“2” 暴露話しは唐突に
――どうして叩くの?
痛い痛い痛い――
――ミコロが何か悪い事をしたの?
痛い痛い痛い――
――ただ、目に違和感が出来ただけなのに
痛い痛い痛い――
志の目の違和感。それは偏に『魔眼』の発現。だが彼女の両親は嘆き悲しみ、それらは直ぐさま憎しみに変わった。
『魔眼』を発症した者。即ち“厄特症患者”は世間からの冷たい目に晒される。それは患者の家族も同じだった。だから決して周りに知られてはいけなかった。病院に行くなんて言語道断だった。
故に両親は志に対して180度掌を返し、次第に彼女の心は擦り減っていった。
そして、“あの日”を迎える――
2026年7月9日。志が『魔眼』を宿してから約一年後の事。日本全土に大量のミサイルが降り注いだあの日。
ミサイルが降り注いだのはお昼過ぎ。夏休み前の午前授業で志は家にいた。彼女は突如としてテレビから鳴り響く“Jアラート”に驚き、窓辺に走り空を見上げた。
その時、志の瞳に映ったのは、一面の空を覆い尽くすミサイルの群れが飛翔していく光景。
彼女は怖くなって、誰もいないリビングでガタガタ震えながら嵐が過ぎ去るのを待った。
遠くで爆発音が聞こえた。近くで誰かが叫ぶ声が聞こえる。何かが崩れる音が響き、何かがガラスを打ち付ける音が幾度もリビングに木霊した。
どれくらいの時間が経過したか分からない。志が気付いた時には既に、空はオレンジ色を宿し始めていた。幸いな事に志はケガ一つなく無事だった。家は窓ガラスにヒビが入っていたが、割れてはいなかった。
「ホッ」と胸を撫で下ろした志は、誰かの声を聞いた気がして、何かに導かれるままに外へ出た――
周囲は焼け野原になっていた。志によく話し掛けてくれたご近所さん、志とよく遊んでくれた、お兄ちゃん、そして誰とも知らない人達。
みんな動かなくなっていた。みんな、志に助けを求めるように手を伸ばしていた。
誰もいなくなった街。廃墟の街。そこに一人の少女の叫び声が響き渡っていった――
その日、両親は家に帰って来るなり荷造りを始めた。廃墟の街を捨て、今の生活を全て捨て、そして志を捨てて逃げ出そうとしていた。
志はそんな両親達の背後に立った。その手には一本のナイフが握られていた。
彼女はそのナイフで父親の首を刺した。そして、絶叫する母親の胸を刺した。
母親はその死の間際に、「ここ……ろ。なん……で?」とだけ漏らすと絶命した。
「あたしはミコロ。アナタ達が散々甚振っていたのは全部、あたし。アナタ達の可愛い『こころ』は、もういないのよ」
『魔眼』を宿したのは志。だが、本当の娘である志は、『魔眼』を発現させる前に志に取って代わられていた。
それがいつだったのかは定かではない。少なくとも、『三国志』を知った時には既に志はいなかった事になる――
――そして、その原因はまだ明かされない――
こうして志は両親の亡き骸を裏庭に埋めた。周囲には焼け爛れた遺体がゴロゴロしてる。裏庭から腐った臭いが多少したところで、気付く人間はいない。いや、そもそもこの街に、生きてる人間は誰一人としていない。
自分を除いて――
斯くして志は仮面を被った。志でありながら、志という存在の仮面を被った。でもそれは飽くまでも仮面。凛とした清楚もオドオドした自分も全て志でありながら、“仮面”というスイッチで演技した。
ココロの仮面を被った志は、ミコロの行動を理解出来ないが、ミコロは全てを理解している。そんなミコロを主人格とした演技性多重人格という仮面。
そして不思議な事に、ミコロの時と、ココロの仮面を被ったミコロでは『魔眼』の特性が変わっていた。
だから許さない。あたしと志の秘密を暴こうとする者は許さない。いくら志が心を開いても、あたしは許さない。
あたしと志がもう一度、一つになるまで。何も知らない志が、全てを知らないままで志に成り代わるその時まで、秘密を暴く事は許さない。
あたしは志の御心のままに生きる志。いなくなってしまった志を元に戻すための装置。
だからあたしは演技する。『魔眼』を使って“英傑”に成り代わる事だって出来る。
でも、志にはやらせてあげない。だって、志にはそんな力、必要ないんだもの。だけど、寂しがり屋だから、話しだけはさせてあげる。
ココロの仮面を被ったミコロは何も知らず、両親がどうなったのかさえ理解せず、たった一人で生きてきた。何故ならミコロが手助けするとココロの記憶は途切れる事になる。だから、ミコロが英傑に成り代わってココロと話す。
そんな歪な二人の関係性。こうして出来上がった共依存。ミコロは思う。最終的に“ココロ”が出来上がったとしても、それはニセモノ。マガイモノ。
しかしそれでも構わない。元からあたしの方が“異物”。異物に仮面を被せて本物そっくりのニセモノを作る。
それで、あたしは満足だ――
これが初めてカレンと出会い、そのカレンを拾う数ヶ月前の話しである――
―― To the Next Take ――




