Ep47 Chapter“2” Scene“2” Cut“3” Take“1” 夜の営みは唐突に
「ねぇ、ミコロっち」
「カレンさん、どうしたんですかぁ?」
カレンはあれから何回も志に話そうとした。だが、その度に「やっぱなんでもない」としか返せなかった。
「伝えられないならいっその事」……と、以前の時のように、突然いなくなるという手段も考えた。だが、いざ実行しようと思うと、その一歩が踏み出せず尻込みしてしまう自分に気付いていた――
「いつからアタシは、こんなにも弱くなったんだろう?」そんな自問自答がカレンの心に過ぎっていく。だが、その答えを見出だせないまま、ある一つの事件が起きる――
その日、カレンはいつもと同じように志と同じベッドで眠り、志が作ってくれた朝食に舌鼓を打ち、忙しなく朝の日課に追われる志を見て、玄関で学校に行く志を見送った。
そして自分も家を出て、礼がいる“ばすまいけっと”に向かおうとした――
カレンは何もなければ夜は志と一緒に眠る。もしも、昼間の散策でイケメンが捕まれば、そのままお泊りコースもザラだった。そしてそれは、「突然この家からいなくなる」事ではないと考えている。
しかし、礼という存在を知ってからは、すれ違うイケメンが全員、“手足の生えたダイコン”にしか見えなくなっていた。以前ならイケメンと見ればホイホイついて行き、快楽を貪り相手のイケメンが足腰立たなくなるまで腰を振って、根こそぎ食らい尽くしていたのにも拘わらず……だ。
よってここ最近はお泊りは一切せず、この家にいる。志の事はツマミ食いだけと決めているから、カレンの性欲が治まる事はない。
……が、ダイコン相手じゃこれまた性欲の抑制にもならない。逆に鬱憤が溜まってしまう。
斯くしてカレンは志に言い出せずモヤモヤし、かと言って気晴らし代わりの性欲も解消せずモンモンとした日々を過ごしていた――
玄関を出たカレンは、“ばすまいけっと”に向かう前に、前から気になっていた裏庭に行ってみる事にした。志は月に二回、夜中にこっそりと起きて裏庭に行っているのをカレンは知っていた。
カレンはその事をしれっと尋ねた事があるが、その時の志の様子は「ほへっ?」と、何も知らない素振りだった。
隠されれば気になる。暴きたくなる。カレンは自分に秘密を作るが、人の秘密は知りたくなる。
志に関しては本能的に自分と同じニオイを感じていたからこそ、ツマミ食いも含めて適度な距離感を保っていたが、満たされない性欲がカレンを少しばかり暴走させたのかもしれない――
「何もないじゃん。ミコロっちは夜中にこんな所で何してんだろ?」
後ろから這い寄る薄ら寒い気配を突如として感じたカレンは鳥肌が立った。そして振り返る。するとそこには、学校に行ったハズの志が立って微笑んでいた。
「どうしたんですか、カレンさん。そこには何もありませんよ?」
いつもの志とは明らかに様子が違う。ねっとりと間延びした甘えるような声でもない。そこにはカレンが知らない彼女がいた。
「ミコロっち?一体どうしたし!学校は――ッ?!」
カレンはそこまで言葉を紡いで漸く気付いた。志の手に握られているナイフに。そして怪しく光るその瞳の異常さに。
「コレがアタシが感じたニオイ。ここにミコロっちのパンドラの箱がある。ミコロっちも、アタシと同じ――」カレンはこのまま対峙していれば、“生きるか死ぬか”だと、直感で感じ取っていた。どちらかが死ぬなんてコトは認めたくない。だけど、自分は志を殺めたくなかった。
「あたし達の秘密を見ようとしたからには、死んでもらいますッ!」
自分のバッグを投げ捨てた志は、その手にあるナイフを構えるとカレンに向かって走り出していった――
カレンは例え暴漢に襲われても切り抜けられる。それが複数で襲って来ても、返り討ちに出来るくらい強い。だから例え相手が志であってもそれは変わらない。
このまま彼女からナイフを取り上げられれば、お互いに命の危険は無くなる。その一瞬を見逃さないように、斬り付けてくるナイフを躱し、チャンスを窺っていた。
――ザシュッ
カレンは明らかに動揺していた。今までの志からは想像出来ないほどキレのある動きだったからだ。
他人のワザを盗む事が造作でもないカレンであっても躱しきれない程の鋭さを持ったその一撃は、カレンの服と共に左腕を斬り裂き、それと同時に左手に血が滴っていく――
――今から二年前の夏に遡る。その日も朝から暑い日だった。大音量のセミが至る所で大合唱。茹だる暑さと相俟って、鬱々とした気分にさせるだろうそんな一日が始まろうとしていた日の朝――
――三国 志の“瞳”に違和感が奔った。前触れもなく、唐突に――
――彼女はそれを両親に伝えた。普段から家を留守がちな両親が心配して仕事を休み、病院に連れて行ってくれると期待した――
――だが、返って来たのは激しい罵詈雑言と暴力。両親は何かに怯えるような目で彼女を見詰め、震える声で謝り続ける志を殴り続けた――
―― To the Next Take ――




