Ep42 Chapter“2” Scene“1” Cut“6” Take“5” 般若のツノは唐突に
「ミコロっち、このオンナと知り合い?
ミコロっちやミチルっちみたいな可愛い女の子にはこんなツンツンオンナより、アタシみたいな可憐でビューティーな大人の女性の方がいいに決まってるし!
ミコロっちもそう思うでしょ?でしょでしょ?」
一触即発の空気。夏なのにミチルの部屋の中は冷え切っていた。志は大好きなミチルの部屋に一人でいた夕樹菜に対して「羨ましい」と思わずにいられなかった。
しかしその一方で、夕樹菜とミチルの爛れたカンケイが頭に過ぎる。従って、そのジェラシーに脳内を支配されていく事になった。
結果、カレンの質問は、妄想の海に沈んだ彼女には届かなかったのである。
しかしカレンが、「可憐でビューティー」という言葉の意味を知っていると思えないセリフだとツッコむ者は誰もいない。
「夕樹菜さん、ミチル先輩はどこにいるんですか?」
「さぁ?知らないわよ。だって、私が来た時、御劔さんはいなかったもの」
その瞬間、志の脳裏に浮かんだのは、「普段からそれならいつでもミチル先輩をこの部屋で待っていられる」という、良からぬ考えだ。
オートロックの入り方は既に学習したからこそ、志の瞳は輝いていた。
「そんなの不法侵入だしッ!可愛いミチルっちがこんなオンナに手籠めにされる前に、アタシが懲らしめてやるしッ!」
カレンが紡いだ言の葉に志は「ハッ」とさせられたが、彼女には“超前向き思考”がある。
従って、「ミコロはミチル先輩の後輩だから、部屋に勝手に上がらせてもらっても何の問題もない」との考えに至り、“通い妻”役を先頭切って突っ走る決意を固めていった。
「へぇ、この私を相手にいい度胸ね?」
バチバチバチと火花が散っていく。冷え切った部屋の温度を急上昇させる壮絶な戦いが、この狭いワンルームで勃発する……その為のゴングが鳴る事を今か今かと待っているかのような二人がそこにいた――
――ガチャ
「ただい――」
どさッ――
それは“カンッ”でもなく、“コンッ”でもない音。更に言えば“ごおぉぉぉぉん”とけたたましい音を響かせる銅鑼でもない。ゴングにしてはどこか頼りない音。
「え……えぇっと……なんで皆が、ミチルの部屋にいるの?ミチル、ちゃんと鍵を掛けたハズなんだけど?」
ここで満を持して家主の登場である――
斯くしてこれら四つ全ての原因が、ミチルを憂鬱にさせており、幾ら“推し活”して眠ろうとハッピーパラダイスにさせてもらえなかった全記録と言えるだろう――
「皆さん、分かっていると思いますが、これはれっきとした“犯罪”ですッ!いいですか――」
かれこれ既に十分は、ミチルのお説教が続いていた。カレンは「怒っているミチルっちも可愛い」と聞き流している一方、夕樹菜はその正当性を主張。志は“通い妻”ムーブに移行してしまったようで、「お茶淹れて来ますぅ」と部屋から出て行った。
「ところで、夕樹菜さんはどうやって鍵を開けて入ったんですかぁ?やっぱり合鍵ですかぁ?それなら、ミコロにも下さい!」
「ミ ク ニ さ ん?本当に怒るよ?」
お茶を淹れ終わり、人数分の湯呑みを持って出て来た志は、自分がこれから立派な“通い妻”になる為の必須条件として気になっていた“質問”を夕樹菜に投げた。だがそれは、ミチルプレゼンツお説教タイム中に……だ。結果、ミチルの頭には立派なアンハッピーなツノが生えている。
「でも、確かにそこはミチルも気になる。夕樹菜さんはどうやって鍵を?」
「余計なオンナがいるから本当は言いたくないんだけど……仕方ないわね。
コレよ」
もしも夕樹菜が秘密裏に合鍵を作っており、それをテーブルの上に置いたなら、その鍵を奪おうとしていた。その数三人。それは獲物の弱点を見極め、その一撃に全てを懸ける血に飢えた肉食獣のようだった。
……が、夕樹菜は自身の“瞳”を指差したのである。
「超ウケるんですけど!さっすがミチルっちの家に勝手に上がり込んだ変質者オンナ。見ただけで鍵が開くわきゃ無いのに、そんなウソを吐くなんて妄想が過ぎてて草生えるマジウケる
もうッ!はやく合鍵を出さないと、ミチルっちが激おこプンプン丸になるし!」
「オマエにだけは言われたくない」と夕樹菜の顔が物語っていた。そして「“激おこプンプン丸”ってなんだろう?」と、ミチルは考えていた。
……が、夕樹菜が自身の瞳を指差したコトで、それが『魔眼』の仕業だった事を悟る。
「アタシの『近眼』は“阻害”と“促進”なの。鍵が締まっている状態を“阻害”してあげれば、開くのは当然でしょ?」
『魔眼』の存在を知らないカレンは、「ヤバッ」と一言だけ紡ぎ、ケタケタ笑うだけでは済まず、部屋を転がりながら腹を抱えて笑っていた。
しかしミチルと志が神妙な顔をしている事からスッと真顔に戻り、「そんなコトが本当に出来るならイケメンの部屋に入りたい放題じゃん」と、本当に良からぬコトを口走って、“にへらッ”と嗤っていた――
―― To the Next Take ――




