Ep41 Chapter“2” Scene“1” Cut“6” Take“4” 不法侵入は唐突に
――ムギュッ
「お客様!店内で騒ぐのはやめて頂けませんか?」
礼は握り締められた手を振り解き、カレンの顎を鷲掴みにするように口を塞いだ。そして、悍ましく穢れたモノを見るような瞳で見詰め、冷たい声を紡いでいく。
――ぺろぺろぺろぺろ
それに続くカレンの凶行。顎を掴まれたカレンは、そのまま礼の掌を舐めだしたのである。礼の掌に伝わるねっとりとした湿った感触。
これには流石の礼も驚きを隠し切れない様子だったが、先程よりも更に低く、氷のように冷たい声を捻り出していく。
「お客様、これ以上は警 察 呼 び ま す よ?」
礼のこの一言が効いた。しかしそれはカレンにではない。カレンは猫が猫用ペースト状おやつを食べるように、礼の掌という“ご褒美ペロペロ”を止める気配はなかったのだ。
よって礼の一言は、棚の陰からこっそりとカレンの様子を窺っていた志に効いたという事になる。
彼女は礼の一言を聞いた途端、焦った様子で飛び出し、カレンを羽交い締めにして店から引き摺り出していった。
これは偏に火事場のクソ力……ではなく、火事場のバカ力というヤツだろう――
「カレンさん、一体どうしたんですかッ!」
「アタシ、イケメンに弱いだけだし!だってだって、あんなイケメン見掛けたら、即ツバつけてアタシのモノにしとかないと勿体無いじゃん!
ミコロっちだって、ミチルっちにツバ付けたいって思うっしょ?」
志としては痛いトコロを突かれた気がしていた。だからこそ、ミチルの掌をペロペロしてる姿を想像して顔を赤らめるに至る。まぁ、まんざらでもない可能性を示しているだろう。
「そ、それでもですッ!警察を呼ばれたら捕まっちゃうんですよ!そうしたらミコロは……うぇぇ」
「ミコロっち、マジ泣き?マジウケ……いや、違うね。ごめんて、ミコロっち。ミコロっちを泣かせたかったワケじゃなくて……あぁ…もうッ!」
――ぺろっ
突然の行動に志は動揺しフリーズしてしまった。そしてその動揺は瞬時に、流れ始めたばかりの雫を止めた。
「なななッ?! カカカ、カレンさん⁉」
カレンは志の唇を奪って、無理矢理にでも涙を止めようとしたのだが、カレンは本能的に唇を奪うのを止めた。
代わりに頬を伝い溢れ出したその涙を、その舌で受け止めたのだ。結果として志は、完全にカチコチに固まるに至る。
「ミコロっちにもツバつ〜けたッ!えへへ。照れてるミコロっち可愛い過ぎて超ウケるんですけど!
さぁ、ミコロっち。もっかいミチルっちの家に行ってみるし。バイトじゃないなら帰って来てるかもしれないっしょ」
カレンはいつもの“にへらッ”と揶揄うように不敵に笑った顔ではない。本当に今を楽しんでいるような“笑顔”を志に向けるとその手を掴み、再びミチルのワンルームへと歩を進めていった――
エントランスで志はインターホンを鳴らそうとしたが、カレンはその手を止めキョロキョロしていた。志の表情は“?”だらけになっていたが、「オートロックってピンポン押してワザワザ開けて貰わなくても」と言い掛けたその時に、ウイィィンと開いたのである。
するとすかさずカレンは、そのまま志の手を引いてオートロックをスルーしていった。
何故ならたまたま外出する住人がいたからだ。それはまるで、オートロックの隙を突く熟練の泥棒のようにも見えた――
カレンはミチルが居留守を使っていると考えていた。それだとエントランスで幾らインターホンを鳴らしても、オートロックが開く事はない。だから入れ替わりで侵入出来るタイミングを図っていたとも言えるだろう。
斯くして無事に、ミチルの部屋の前に来た二人。カレンはその扉の鍵が閉まっていない事に気付き、音を立てないようにソォ〜っと開け、そろりそろりと部屋の中へと侵入っていった。
志はカレンの行動にオロオロしていたが、カレンが「シーッ」とポーズを取ったので仕方なくカレンの後に続いていく。小声で「お邪魔しまぁす」と言いながら――
――バンッ
「ミチルっち、おっひさ〜!暇だからミコロっちと遊びに来ッ――誰アンタ?」
カレンの想定では、ミチルは居留守を使っているからこそ、「突然現れれば驚いた表情をするだろう」と考えていた。そしてその表情が是非とも見たかった。
だが、部屋にいたのはミチルではない。そして、ミチルは本当にいなかった。
「それはこっちのセリフよ。貴女こそ誰なの?御劔さんのお友達……にしては、随分と下品ね」
部屋の中にいた人物はカレンの事を、上から下まで舐め回すように見た後で少しだけ目を吊り上げて言葉を紡いだ。
カレンはその一言にカチンと来たようだ。まぁ、初対面の人間にいきなり「下品」と言われればそれも仕方ないだろうが、そもそもカレンはその大きな胸元を強調するようなカッコなので「下品」と言われても仕方ないと言えば仕方がない。
「夕樹菜さん?」
家主はおらず、代わりに部屋の中にいたのは木之下 夕樹菜だったのである――
―― To the Next Take ――




