Ep40 Chapter“2” Scene“1” Cut“6” Take“3” お目々ハートは唐突に
――原因其の弐――
ミチルを憂鬱にした二つ目の原因。それは即ち、“ばすまいけっと”をクビになったという事だ。原因は言わずとも知れた、「地獄の揚げ物エンドレス事件」が発端となっている。よってこれは全て、夕樹菜と志のせいと言いたいところだが、意外と違う。
「志之先 礼と申します。本日より宜しくお願い致します」
黒髪の短髪。高身長で甘いマスク。柔和な笑顔と優しさが溢れる美声。まるでアイドルのようにイケメン男性が、アルバイトとして“ばすまいけっと”に採用されたのだ。それだけならミチルのクビとは何の因果関係もない。
だがそんなイケメン過ぎる彼をミチルは何とも思わなかったが、店長の奥さんが気に入ってしまった。そしてあれこれと店長に吹き込んだようなのだ。
これがミチルがクビになる前段階に忍び寄る足音であり、死刑宣告の二週間前だった。
更には彼がバイトするようになってから、来店客が爆発的に増えた。結果的にミチルが入れるシフトが失われる危険性が高まっていった。ただでさえ、週一しか入らないミチルはその僅かな隙間に必死にしがみついていたが、決め手は店長からの一言だった。
「御劔さんこの前、店に損害出し掛けたから、これから月イチでいいかな?礼クンが休みたい時だけ来てもらえる?その時はこっちから連絡するから」
事実上の戦力外通告。確かに客が増えれば店の売り上げが増える。“礼”がいれば客は増えるが、ミチルがいてもミチル目当ての客は“ばすまいけっと”にはいない。
ダラダラとラクをしたいミチル。品出しから接客まで余裕でテキパキとこなす“礼”。どちらが店の為になるかは一目瞭然だ。
結論からして、ミチルはその戦力外通告を受け入れ、FA宣言するしかなかった――
――原因其の参――
次もまたバイトの事。ミチル天下の“業スムーパー”にも暗雲が立ち込め始めていた。“ばすまいけっと”と同様にこちらにも新人が現れたのである。
ただ、こちらの“新人”はアイドル然としていた“礼”とは異なり、見た感じからして不良。若しくはヤンキー。いや、極道にも近いと言った方がいいかもしれない。顔のパーツの至る所に輝く黒ずんだシルバーが見る者の恐怖を誘う。
なんで雇ったのか理解に苦しむところだ。
そして見た目同様に行動も言葉遣いも粗雑だが、根は真面目なようで接客も卒無くこなす。完全に外見で損をするタイプだ。
学生のミチルと違って、フリーターの彼は外見だけを除けば即戦力になった。そうなると客から人気のあるミチルでも、予断を許されない状況というヤツだ。
これがもし、“礼”が“業スムーパー”に入り、見た目が怖い“彼”が“ばすまいけっと”だったなら――
と、考えると状況は変わっていたかもしれない。
だが二人は、それぞれ適材適所に現れた。それはまるで“神のイタズラ”のように――
――原因其の肆――
もうこれは言わなくても分かってると思うし、分かっていてもらいたい事。それは即ち、志にミチルの家がバレているという事だ。そしてそんな彼女とカレンは今は一緒に暮らしている。
カレンはイケメンからの誘いにスグ付いていく“イケメンホイホイされ”だが、それと同時に“男性ホイホイ”だ。しかしそんなカレンは“悪食”で、その食指が動くのは男性だけとは限らない。
更に付け加えると海でミチルと出会い、ミチルをその毒牙でツマミ食いを企んでいた。それはモチロン、志がいない所で……だが。
拠って、志がミチルの家を知っている事を、さり気ない誘導尋問で聞き出したカレンは、共にミチルの部屋へと向かったのだった――
――ピーンポーン――
学校から家に一度帰り、志はカレンと途中で待ち合わせ、ルンルン気分でミチルの部屋へと向かった。
そしてエントランスでインターホンを鳴らし待つ事五分。室内からは何の反応もない。
一応、このワンルームマンションはオートロックが掛かっているからキーがなければ無断侵入は出来ない。部屋からミチルが開けてくれなければ侵入は不可能だった。
「ミコロっち、どうする?ミチルっちが行きそうな心当たりって知ってる?」
「ミチル先輩のバイト先なら知ってますぅ!」
カレンはにへらッと笑うと、「流石ミコロっち、マジウケる!じゃあ、バイト姿のミチルっちを見に行くっしょ!」と志を先頭にバイト先へと向かう事にしたのである――
――とぅんくッ――
志に案内されて着いた“ばすまいけっと”。そこのレジにいる店員を見たカレンの胸は高鳴った。
顔はみるみるうちに紅潮し、心臓はドクドクバクバクと激しいビートを刻み、下腹部の辺りがキュンキュンした。
気付けば志を放ったらかして、店の中へと入り、その店員の両手を握り締め「シよ?今すぐシよ?ここでシよ?」と声を張り上げていた。
その突然やって来たカレンのお誘いに戸惑い、顔を歪ませ、さも悍ましいナニカでも見る表情で対応していた店員こそが、志之先 礼である――
―― To the Next Take ――




