Ep37 Chapter“2” Scene“1” Cut“3” Take“1” 海の藻屑は唐突に
カレンの行動と意味深な志のセリフに因って身の危険を感じたミチルは、今後の対策を考えるべく「飲み物買ってくるねー」と、そそくさダッシュで駆け出していた。
……が、ここは浜辺で砂の上。結局足を取られて派手に転ぶ……かと思いきや、執念のバランス感覚で倒れるか否かの華麗なるステップを踏んでいた。
その時――
周囲はザワザワしていた。何故なら少なくともここは海だ。顔面包帯グルグル巻きが十人以上で来るような場所ではない。
これでは天国から地獄。ミチルあるところにトラブルあり……だ。
よってその包帯グルグル男共は、リア充達限定で「爆発しろ」と言わんばかりに当たり散らしていた。
しかしその異様な光景にカップルや、家族連れは道を譲るように離れていった。
――ドんッ
ミチルは砂に足を取られ、必死のステップも虚しく、近付いて来た障害物に衝突するに至る。
――ギロッ
「あわわわわ」
ぶつかった衝撃で尻もちをついたミチルを、上から睨み付ける顔面包帯グルグル。ミチルは衝突した事に慌て相手の“顔”に対する恐怖と共に、歓喜の声を上げようとしていた。
「ランポーくんの一話に出て来た“恐怖のグルグル男”だッ!」……と。
どうやら“推しアニメ”に出て来た犯人役のコスプレでもしてると思ったのだろう。
一方のグルグル男達は、ミチルの姿を舐め回すように見たが興味が唆られなかった様子で「ガキか」と、吐き捨てようとした時に衝撃が奔った。
「ミチルせんぱぁぁぁい!待って下さあぁぁい!買い物なら、ミコロも一緒に行きますうぅぅ」
グルグル男達は志の弾けんばかりの水着姿に衝撃を受けたワケではない。蘇ったのだ、あの日の恐怖が。
「げげッ!赤い悪魔がやって来ちまう」……と。
続けて一斉に声が上がった。大きく胸を揺らしながら近寄って来る志の更に後ろ、そこにある見覚えのある二つのたわわが、更なる恐怖へと誘った。
「ぐげッ!これ以上ブ男にしないでくれぇ」
斯くしてグルグル男達は我先にと逃げ散った。後にはきょとんとした志と、残念そうなミチル。そして、きょとんとしている志を後ろから手ブラして、水着の紐をしっかりと縛り直しているカレンの姿があった――
一方、逃げ散らかしたグルグル達は荒れていた。
どれだけの時間逃げていただろう。今にも聞こえて来そうな「しゅるる」という幻聴に囚われ、一心不乱に砂浜を疾走ったグルグル連中は、気付けば立ち止まり、海に沈み行く幻想的な夕陽に見惚れていた。いや、見惚れているカップルを見ていた。
「こんな所でイチャつきやがって、俺達も混ぜてくんねぇかぁ?」
夕陽に見惚れていたカップルが気付いた時には後の祭り状態だった。頭に包帯をグルグル巻きにしている連中が、薄暗くなって来たこの時間に突如として現れたのだから、それはゾンビパニック映画さながらの恐怖だった事だろう。
「キャアァァァァァァッ!」
カップルの女性が、恐怖に耐えられず思わず叫び声を上げた。昼間はあれだけ人がいた浜辺も、夕方になれば閑散とする。男性の腕に自信があれば、カノジョを守ろうと戦う事も出来ただろうが、周辺には包帯ゾンビが十人近く。数の暴力に屈し腰を抜かしていた。
「はぁ……はぁ……や、やめるんだな!嫌がっている相手に無理強いはよくないんだな。せめて、砂浜以外でやって欲しいんだな。ゼェゼェ」
ドシドシと音を立て掛け声と共に近付いて来たのは、力士に見える巨漢の男だった。彼は叫び声を聞き付けこの場にやって来たのだ。ドモりながらも勇気を出してグルグル男達の蛮行を止めようと声を掛けたのかもしれない。
それは重そうな体重を支えている二本の脚が震えている事からも分かる。
「相撲取りが何の用だ?俺達の邪魔すんじゃねぇ!」
グルグル達は気付いていなかった。逆光故に気付けなかったそのモノは、男の太い腹に巻かれている“まわし”についていた。そう、ベルトである。
「し、仕方ないんだな」
――しゃららららーん
「とぅ、なんだな。お、おいどんは“セイギ”の使者、多分戦隊ジャスティスファイブの“タベスギイエロー”……なんだな」
グルグル達に驚愕が浮かぶ。それて同時に湧き上がる絶望。この短期間で三回も出会ってしまった恐怖。前回、前々回と同じなら、コイツからも逃げられない可能性が高い。二度あることは三度あるという事だ。だが、連中がその言葉を知ってるとは思えない。
そこでコイツは明らかに重そうだから逃げ足は遅いだろうとタカを括り、ここでもまた一目散に逃げる事を選んだのだった。
「わ、悪さをするヤツらは許さないんだなッ!」
――ドンッ
それは座り込んでいるカップルすら揺れる程の“四股”。だから足場が悪い上に逃げ出している者達はその場に倒れ込んでいく。
斯くして「反省するんだな」の一言を浴びたグルグル達は、そのグルグルに強烈な張り手を喰らいそのまま海の藻屑となったのである――
その頃のミチル達は――
―― To the Next Take ――




