Ep38 Chapter“2” Scene“1” Cut“3” Take“2” 勘違いは唐突に
「ねぇミチルっちは、どんなのがタイプなの?さっきの包帯男達みたいなのだったら、超ウケるんだけど」
――ぴくッ
ミチルは海にいる間、結局一度も海には浸からなかった。そしてそれは、志とカレンも同じだ。
ミチルがどこかに行こうとすれば必ず志が付いてくるし、そうするとカレンもいつの間にか背後にいた。ミチル行くところに志の陰がある以上、身動きが取り難くなる水の中に入れば貞操の危機だと感じたのかもしれない。
結局、当初の想いは完遂されないまま三人は帰路につく事になった。
そして帰りは何故かカレンも一緒という事になり、ミチルは再び両サイドに肉圧を感じなければならなくなっていた。
ミチルは試しにカレンに聞いてみた。「何処に住んでるんですか?」……と。カレンは答えた。「今はミコロっちの家で暮らしている」……と。そして更に続けた。「でも、昨日はイケメンに声を掛けられたから、今日はソイツの家から来た」……と。
ミチルはカレンという人間の貞操観念が分からなくなった一方で、志とカレンのカンケイを改めて再認識するに至る。
そしてソレはカレンが“にへらッ”と笑ったタイミングで唐突に始まった――
ミチルに恋愛経験は無い。そればかりか“初恋”の相手こそ、テレビの中のランポーくんだ。ミチルは『真眼』に目覚めた時に、たまたま気を紛らわす為に見たアニメの中で動くランポーくんに恋焦がれてしまったのである。
そんなミチルにカレンは興味津々でコイバナを吹っ掛けた。そしてミチルを挟んで反対側にいる志は、ミチルから発せられる“金言”を、今か今かと聞き耳を立てずにはいられなかった――
「ミチルは……」
「ミチルっちは?」
ドキドキと鼓動が高鳴っていった。それは偏にミチルが純粋だからかも知れない。
「ラ……」
「ラ?」
カレンの表情が曇っていく。少なくともカレンが期待した答えではないと気付いたのだろう。
「ランポーくんです」
「ランポー?えっとミチルっち?ソレって、要するに……」
ミチルは顔を赤くしていた。「アニオタだと思われた」と思えばこそ引かれるコトを覚悟していた。しかし好きな人を謀るコトなんて、ミチルには出来っこなかった。
「ミチルっちって、まさかのアメリカ人好き?まさかそんなエっぐい趣味があったなんて、小さなカラダで可愛い顔してるのに超ウケる!確かに外国人ウケするカラダっちゃカラダだから、サイコーに気持ち良くなれそう!ヤだ、アタシも混ぜて欲しいッ!
やっぱ、ミチルっちってサイコーじゃん!」
「ほへッ?!」
どうやらカレンは勘違いしたようだ。そして家にテレビが無い志も、“名探偵ドイル・ランポー”を知る由もない。よって二人揃って外国人が好みと考えたと言える。しかもカレンに至っては、不謹慎過ぎる想像に達した様子だ。
しかしランポーからエドガー・アラン・ポーを感じ取ったカレンは単なる軽薄おバカキャラではないのかもしれない――
―― To the Next Cut ――
「そうか、三人目が現れた……か」
「はい、学園長。木之下先生から報告があった戦隊ヒーローですが、確かにその力は本物のようです。“赤”と“桃”は報告があった後から消息を絶っている事もあり、未だに観測出来ておりませんが、今回現れた“黄”の力は相当でした」
ここは私立森林之木学園特別高等学校の学園長室。木之杜 杠は、夕樹菜の提案を表向きは受け入れる形で、“戦隊ヒーロージャスティスファイブ”の消息を追わせていた。
そして本日の夕方に発見があったと報告を受け、その日の夜に観測していた森之木 稜真を学園長室に呼び付けていたのである。
「それで、報告書に纏めてもらう前に聞かせて欲しい。その力はどの程度だと見る?もしもキミと戦ったらどちらが勝つ?」
「全力で戦っても恐らく、ボクの勝ち目は二割あるかないか……ですかね。でもそれも相手が丸腰だったら……の話です」
稜真は敢えて濁して語った。その背景には、「戦隊ヒーローなら武器の一つもあるだろう」という言葉が隠されている。
その隠された言葉を杠が発見出来たかはさておき、その勝率に対して何の感想も言われないまま、「報告書は近日中に頼む」とだけ伝えられた彼はそのまま一礼をして部屋を後にした。
「『点眼』を使っても二割程度……か。確かにそれなら夕樹菜が言った通り、確保出来れば国に恩を売る事は可能か。
だが、そうなるとどうやって協力体制を整えるかになる。協力を望めない場合、屈服させるしかなくなるが、勝てない相手を屈服させるのは骨が折れそうだ」
稜真が部屋を出た後で杠は、葉巻きに火を付けて部屋を濃厚なアロマで満たしていく。
学園長室から見える空はもう夜の帳が降りたあと。『耳眼』からの連絡はまだ上がって来ていない。今夜は夕樹菜を拾いに行く必要はないだろう。
「これなら今日はゆっくり考えられる」と、杠は綺麗に整えられた顎髭を撫でながら思考を巡らせていった――
―― To the Next Cut ――




