Ep29 Chapter“1” Scene“6” Cut“2” Take“3” フライドチキンは唐突に
「でもちょっと待って、孔明。“無中生有”は分かったわ。これは使いようによっては素晴らしい武器になる。でも――」
「それに続く言の葉は「対、国家相手では意味が無い。更に、コレで戦争を止める事は出来ない」……でしょうか?」
三日月宗近を見た夕樹菜は確かに心惹かれた。物理法則の一切合切を無視したこの力なら、強力な兵器になり得る。だが……。
孔明はそんな夕樹菜の言葉を遮り、扇子を扇ぐよう軽く受け流していった。
「そ、そうよ。貴方が描く三国構想は素晴らしいのだと思う。だけど、いくら武器を作成出来たって貴方の思い描く“蜀”には成り得ないわ。
それに、私の卒業生にそれを持たせて戦場に送り込むなんて言うなら、賛同し兼ねるわ」
「それでは趣向を変えると致しましょう。
ミチル殿。その刀は他人に“譲渡”出来ますかな?」
――ふるふる
ミチルは首を横に振った。そして孔明はその姿を見て、ご満悦の表情だった。
「それでは次の趣向と参りましょう。ミチル殿、この部屋の窓を開けて外にその刀を向け「爆発しろ」と仰って頂けますかな?
なぁに、ここは私の「空城」。何が起きようと、間違っても誰にも認識はされますまい。ご安心召されよ」
ミチルの刀を持つ手が震える。その表情は不安でいっぱいだった。孔明の話し振りではこれから何かが起きるのだろう。ミチルはそんな事を思い付きもしなかったし、試した事もなかった。
でも、「今回だけ。今回だけ言われた通りにすれば、普通でいられる」そう言い聞かせ、カチャカチャと鳴っている刀を両手で掴み、空に向かって言われた通りに叫んだ――
「お分かり頂けましたかな、夕樹菜殿」
「え、えぇ。確かにコレなら、相手がこの国だろうと、超大国だろうと立ち向かえる。それに空一面のミサイルが降って来ても何とかなる。
それにしても、なんで孔明がそんな事まで知っているの?貴方、本当に『三国志』に出て来た“諸葛亮”なの?」
ミチル以上の震えを夕樹菜は感じていた。それと同時に沸き起こる夕樹菜の疑問は当然だった。だが孔明は「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」と答え更に続けた。「しかして本質は、敵よりも先ず、己を“識る”事。さすれば、一を聞いて十を知る事ができる」と纏めた。
「さて、ミチル殿。ご協力感謝致します。そして貴女に助言を一つ」
「じょ……げん?」
孔明に言われた通りに叫んだミチルは、その光景に腰を抜かし床に座り込んで「あわわわわ」と目をまん丸くしていた。そんなミチルに孔明は驚くほど優しい声で話し掛けたのだった。
「力は使いようと申します。ミチル殿は今まで力に呑まれず、力を求めず、ただ隠す事のみに心血を注いでこられた。だから今はそれで良いのです。
ですがこれから先、この国は大きく揺れる。貴女の平穏は貴女の手で掴まなければならなくなる。そんな時がきっと来る。だから貴女は、その時までに何を為すのかを決めておきなされ」
ミチルの手の中にもう“三日月宗近”は無い。ミチルが言われた通りに叫んだ結果、産み落とされた刀は光の余韻を残して消えた。
ミチルは孔明の不穏な空気を孕んだ“助言”に、気が遠くなるなる感じがしたが、その反面、今までのモヤモヤがストンッと腑に落ち、どこかスッキリした感じがしていた――
家主を差し置いて、夕樹菜はビールを片手に孔明と難しい話しを始めた。その話しにミチルが加わる事はない。
ミチルは『天下三分の計・弐式』の詳細が分からなくても構わない。余計な事に首を突っ込めば自分の平穏な日常は塗り替えられてしまう。孔明が話してくれた「その時」までは、少なくとも「普通の高校生」でいられるという事だ。
ミチルは夕樹菜に呼ばれた気がした。そう言えば、ミチルは夕樹菜の名前を聞いた記憶がない。その名前を孔明が呼んでいるこらこそ、夕樹菜だと思っていた。そこに疑問はない。
しかしあの日、命懸けの鬼ごっこをしたかと思えば、今日は自分の部屋でビール片手に熱く議論している。実に不思議な光景だ。
「なんですか、メリーさん?」
その瞬間、ミチルの顔にフライドチキンがベチャっと当たった。
「私の名前は夕樹菜だ。木之下夕樹菜。ちゃんと覚えておけ小学生!
それと、ちゃんと食べろ!まだ飯を食ってないんだろ?」
ミチルは目を尖らせ「小学生じゃないモン!ピチピチの女子高生だモン!」と声を荒らげ、「やはり孔明は凄いな、誰かは知らないけど」とそんな考えを抱きつつ、冷えたフライドチキンに噛りついた――
「ねぇねぇ、さっきの感じた?何も見えなかったけど、凄ッゴイ力だったわよね?さっすが優秀な鎧よね。あぁん、アタシ、ゾクゾクしちゃった。
ねぇ、アナタ達もそう思うでしょ?」
ピンク色の戦隊ヒーローのコスプレした女性が一人、屋根のない空き家から空を見上げていた。
その足元には、ガラの悪そうな不良達。彼らは全員白目を剥いたまま意識を失っている様子だった――
―― To the Next Scene ――




