Ep28 Chapter“1” Scene“6” Cut“2” Take“2” 金色は唐突に
「今、この地に、本来の歩みから外れた“力”が舞い降りておりまする。その力を求め、協力を得られれば、確実にこの国は“蜀”となりましょう。
そして私が提唱する策。『天下三分の計』は“弐式”。その二つ目もこれから説明すると致しましょう――」
夕樹菜は孔明の話しに心を持っていかれた。だからそれだけを聞いていれば、「確かに」と思わざるを得なかったという事だ。
それは偏に「イジュウランスインの光」が齎した『魔眼』の力だけでは、戦争の抑止力にはならないという事を示している。何故なら『魔眼』は、視界に入れ「視た」ものにだけしか効力を発動しないからだ。だからこそ、夕樹菜は現状に於ける政府の“シナリオ”を信じていなかった――
要するに、一方的に開戦されたあの日のように、数千発にも及ぶミサイルが本土上空に現れれば対処は覚束ない。いくら卒業生達を掻き集めても、不可能としか言いようがない。
そして、いつ再びミサイルが降り注ぐかすら分からないのに、対処が出来るハズもない。
だからこそ、現状に於いて政府の……否、国家の考えは間違っていると、夕樹菜の考えに沿った答えを孔明は告げた――
そして更に孔明は続ける。その内容は「並外れた力を持つ者」に協力を求める傍ら、残る『邪眼』、『偽眼』、『真眼』の“瞳”を持つ者達を集める事を提唱するという中身だった。そしてその勘所は、政府の目の届かないところでという所にあった。
それは偏に、「被検体」として使い潰される事を“善し”としない考えであり、逆にそんな事をすれば、戦争の抑止力にならないと説明するに至る事で、更に夕樹菜の心を揺らした。
「確かに、報道機関が役に立っていない今、現状を正確に識る国民はいないわ。だけどそれは――」
「それが本来の“特別”高等学校の“意義”ではありませんか?
では、話しを変えましょう。そこのミチル殿。貴女の力を使って頂けますか?あの時のように」
少なくともミチルからしたら、二人が何を話しているのか分かっていない。ミチルはこれまで必死に“力”を使わないように隠してきたからだ。
それの意味は、情報から敢えて自分を遠ざけていたという事でもある。
だからこそ、唐突に矛先を向けられてミチルはフリーズした。
ミチルは現実から眼を背けるべく、推しアニメだけを見る事で、ソレから逃避していたという事を意味している。そして、力に目覚めてから今までに使ったのは、たったの二回しかない。それくらいミチルの中で禁忌という事だ。しかし、孔明は「今ここで見せろ」と詰め寄ったのだった。
これはミチルにとっては葛藤でしかない。一度も人前で見せた事もなく、ひたすらに隠してきたモノを人前で披露しろと言われてしまったのだから……。
「ミチル殿、この部屋にいれば安心です。ここで起きた事は、この孔明と夕樹菜殿しか知りません。ミコロですら知らない“事実”となります。
だから、そのミコロの脳天にぶつけたアレを今一度、見せては頂けませんか?そして今回は、あの時とは違って、ちゃんと“刃”も付けて頂けますかな?」
孔明は全て理解しているようだった。だからこそミチルに逃げ道は残されていない。唯一の救いは、志に知られないという事だ。流石に鈍器を投げ付けられたという事実を知られる事は、精神衛生上宜しくない。
一方で夕樹菜は、未だに見たことの無い『真眼』の持つ力に興味津々で、猜疑心と共に好奇と期待を込めた目をミチルに向けていた。
「分かり……ました。一回だけですから。絶対に今回だけですからッ!」
「えぇ、構いません。私が提唱する“計”に貴女の存在は、なくてはならない存在ではありません。
ただ、夕樹菜殿はいなくてはならない。彼女は必要な“存在”です。従ってその夕樹菜殿に『真眼』の本質を見せる必要があります。
再度言います。お願い出来ますか?」
ミチルはコクッと無言で頷いた。そして「いなくてもいい」の一言に安堵していた。「これっきり、これっきりで自分の平穏は守られる」……と。
決意を固めたそんなミチルの瞳は、紫から緑を経由して金色の輝きを伴っていく。
徐ろに立ち上がったミチルは、金色の輝きを持つ瞳で虚空を見詰め、何も言の葉を紡がずにに虚空に手を伸ばしていった。
――ミシミシ、ピシッ――
空気が歪む音が部屋に響いていく。いつしか夕樹菜の瞳の色が鮮やかなエメラルドグリーンから変わっていた。
そして孔明を宿す志の瞳もまた、その色味を増していた――
「こ……これが、『真眼』な……の?」
「えぇ、夕樹菜殿。これが『無中生有』。有なる瞳に無なる存在を生み出す『偽眼』の対になる“瞳”。無から形ある物を生み出す力」
ミチルが虚空から取り出したのは一振りの刀。それこそ三日月形の「打ち除け」を有する名刀。偏に天下五剣と呼ばれる最も美しいと称される日本刀。『三日月宗近』である。
その美しい刀に夕樹菜の手は震えていた――
―― To the Next Take ――




