Ep27 Chapter“1” Scene“6” Cut“2” Take“1” 社会的“死”は唐突に
ミチルは心の底から憂鬱だった――
志が作った朝ご飯は、確かに美味しかった。とは言っても、“ばすまいけっと”で夕樹菜が買った大量の揚げ物と言う名のリメイク作品だったので、味が不味いハズがないのが当然と言えば当然だ。
そして更に志の快進撃は続く。ミチルの部屋を一緒に出た後、駅へと向かう道中で彼女は徐ろにミチルの腕へと手を絡ませて来たのだ。
ミチルは最初、産まれて初めての衝撃に変な声を出し、借りてきた猫のように条件反射でその腕を振り払い距離を取ったが、電車に乗ると事態は一変した。
満員電車に揺られる事になった二人の距離は、物理的に急接近。ミチルは再び顔面に、昨夜同様の“肉圧”をこれでもかと味わわされる事になった。
これは世の男性陣からすれば裏山けしからん状況だろうが、ミチルは至って普通の女の子。爛れた百合願望など持っていない。況してや、その肉圧はコンプレックスをこれでもかと刺激する。
因って、電車を降りる頃にはぐったりしていた。そんなミチルに志はがしッと絡めるように腕を巻き付かせ、再びグイグイとたわわ過ぎる圧を押し付けて来る。更には振り解かれないように先へ先へと進んでいく。
その顔は非常に晴れやかで嬉しそうだった。
ミチルは大層不服だったが、一人で通う事に慣れた通学路でも、誰かと一緒に登校すると景色がいつもと違うな……などと、少しだけおセンチになっていた。
疲れとは正常な思考を害するモノである――
そして昼休み。普段はコンビニでパンを買って囓る毎日だが、今日は志が作ったお弁当が待っている。しかし、どうも嫌な予感がしていた。
中身を見なかったからそれは、「シュレディンガーの猫」である。しかし、ミチルの嫌な予感は当たる。十中八九ではないが、半分くらいは当たる。
拠って再び、あの屋上へと足を進めていった。
「やった今日も開いてる」ここでミチル、渾身のガッツポーズ。普段から屋上に来る生徒はいない。人気がなければ、嫌な予感しかしない中身を見られる事もない。
そんなミチルはまたまた鍵を掛け忘れた用務員に感謝しながら、屋上へと足を踏み入れて行った――
見なきゃ良かった。いや、見られなくて良かった。そこかしこに散りばめられた“♡”。こんなのを友達に見られたら、いらぬ疑いが立つ。あらぬ噂が立つ。火のない所に煙は立たないが、これは燃え盛る業火だ。ミチルはジャンヌダルクではない。そんな“社会的な死”は望んでいない。
「いたぁ!ミチル先輩もここでお昼ですかぁ?一緒にミコロもいいですかぁ?」
「別にいいけど、三国さんは、教室で食べないの?」
突然のよそよそしい呼び方に志は肩を震わせた。そして後ろに続く発言は爆弾だ。それは敢えて彼女と距離を取ろうと考えた故の発言だった。
「ミチル先輩!三国なんて呼ばないで下さぁい!今朝まではちゃんと名前で呼んでくれてたじゃないですかぁ」
ミチルは非常に憂鬱だった。志はへこたれない。とっさの防御壁では何の役にも立たない。
結果、昨夜に引き続き「もう、どうにでもなれ」と割り切る以外に策は失くなっていた――
―― Return to Previous Scene ――
「――拠ってここからが今後の“策”。名付けて『天下三分の計・弐式』」
孔明の策。少なくとも“名称”だけで、理解出来る者はいない。時折夕樹菜は閃いたような表情を見せるも、瞬時に昏くなる。そんな顔芸を繰り返した結果、結局「分からない」と言の葉を紡いだ。
ミチルは最初から全くもって理解していない。更に付け加えると、『孔明』と言う名前にもピンと来ていないので、「志の口調が変な風になった」くらいで、ポケーッと見ていた。
「今、この国では戦争が起きています。だがその戦争は、巻き込まれたモノ。故に上層部は打開策を狙っている……そうでしょう?夕樹菜殿」
――コクッ
「よってその打開策として、『魔眼』に白羽の矢が立ってしまった。しかし『魔眼』だけでは戦争は止められない。より多くの国民を傷付け、その命を奪うでしょう。だからこそ、それ以上の――より強力な“力”が必要になる。
私は、その“力”の在り処を知っています」
孔明は策を授ける為に語った。夕樹菜はその内容に訝しんでいる様子だが、もしも孔明が話すそんな力があるのなら、卒業生達を元の生活に戻す事が出来るかもしれないと、その瞳に希望が宿りつつあった。
「そんな力なんて、どこにあるっていうの?」
「人の力は知れたもの。どんなに早く疾走ろうとも、馬には勝てず。どんなに高く飛ぼうとも、鳥には勝てない。
そんな常識を覆す“力”があるとしたら、どうしますかな?」
この中にテレビっ子がいればピンと来たかもしれない。だが夕樹菜は基本的には仕事の虫。更に最近は専ら、仕事が終われば酒の虫。
そして当のミチルは、推しアニメの虫。だから知る由もない。
もしも会話に参加していれば志だけが気付いたかもしれない――
―― To the Next Take ――




