Ep26 Chapter“1” Scene“6” Cut“1” Take“1” コンプレックスは唐突に
翌朝。外から聞こえる雀の囀りと、カーテンの隙間から射し込む光にミチルは、無慈悲にも起こされた。
要するにミチルは、満足のいく睡眠時間が取れなかったという事だ。
よって結論から言うと、ミチルは気絶する形で寝落ちした。それが何時だったのかは分からない。夜が明ける直前だったのか、はたまた今から一時間前だったのかも定かではない――
―― Return to Previous Scene ――
「お風呂先に頂きましたぁ。ミチル先輩、ありがとうございますぅ」
志を泊める事になったミチルは、先ずお風呂タイムを選んだ。だが、来客がいる以上、先に入るのは忍びない。拠って彼女を先に入れたワケだが、出て来た志を見た瞬間のミチルの感想は「ゲッ」だった。
そもそもミチルは、この部屋に誰かを上げる事を想定していない。だから来客用の寝間着やら布団やら一切合切用意していない。「普通の高校生」ならお泊り会と称した“女子会”やら、彼氏を連れ込んで……といった事も考えられそうだが、女の子らしからぬこの殺風景な部屋に、誰かを呼びたいとは思っていなかった。
そして当の志は、成り行きでお泊りが確定したのだから、着替えを持って来ているハズもない。
だからミチルは、仕方なく自分のを貸す事にした。流石に下着は貸せないので使い回してもらったが、せめて寝間着だけなら……と、押し入れの片隅でこやしになっていた中学の時のジャージを貸すに至る。
このジャージは中学の時の制服同様、ミチルにとってはブカブカだった。「背が大きくなるから(以下略)」である。これは過去の話しを参照されたし。
……が、そんなミチルにはブカブカなジャージでも、志にとっては、とっても小さかった様子だ。志はミチルと比べると二回りは身長が大きい。更に比ぶべくもないのがバストサイズだ。
よって、ミチルジャージを着た志は、つんつるてんな上に挑発的なヘソ出しルックという、ミチルのコンプレックスをこれでもかと刺激する事になる。
だからこそ「ゲッ」に全ての思いが込められている。
更に志、そのジャージをくんかくんかしており、「ミチル先輩の香りがしますぅ」と、更にミチルの顔を引き攣らせていたのもまた事実だ……が。
更にミチルの受難は続く――
ミチルとしては志を部屋に一人で居させる事に抵抗があったが、一緒にお風呂に入るワケにはいかない。コンプレックスの塊のようなミチルには、服の上からでも分かる大きな凹凸は目の毒だ。それが一糸纏わぬ状態で目の前に現れたら、目の毒を超えた猛毒になる。
因って、一人で居させる事の危険性と、自身のコンプレックスを必要以上に刺激される痛みとを天秤に乗せた結果、後者に軍配が上がるのは当然の帰結だった――
一日の疲れを癒やしたミチルは、ホカホカな体に寝間着兼部屋着を通し、濡れた髪にタオルを巻いて脱衣所を出た後、再び「ゲッ」が漏れていった。
何故ならばミチルのベッドで、志が夢の世界に旅立っていたからである。
繰り返すが、ミチルの部屋に予備の布団はない。だからそこを志に占拠されると、家主たるミチルは硬い床の上で寝る事になる。
流石に“同衾”するほど仲良くないから、どちらかが床で寝る事になる。だがそれでもそこだけは、志に譲りたくなどなかった。
従って、寝ている彼女を起こし、床で寝てもらおうとその身体に手を掛けたその時。
「エッ?!」
――どん、むぎゅッ
ばんばんばん――
ミチルの腕は志に掴まれ、身体はそのまま転がる様にベッドの中へと引き摺り込まれた。要するに、志の抱き枕に任命されたという事だ。そこでミチルを襲う大きな胸の大きな圧力。たわわ過ぎる肉の圧力は、夕樹菜の『近眼』を思い出さずにはいられなかった。
よって脱出を試みるも、志の柔らかく重たい太ももが、ミチルの腰をロック。更にその両腕はミチルの背中に回されこちらもガッチリロック。
呼吸は苦しく体制が悪い結果、思った以上に力が入らない。従って、身動きが取れないミチルは、志の抱き枕になる選択肢しか選べなかった。
こうして呼吸困難と劣等感の板挟みとなり眠れない時を過ごしたのである。
「これなら無理にでも家に帰ってもらうんだった」と、後悔を抱きながら――
ミチルが眠い目を擦りながら周囲を見回していく。志が寝ていたベッドの上には綺麗に畳まれたジャージが置かれていた。
「朝早くに帰ったのかな」とミチルが回らない思考で考えていると、カチャりと部屋に音が響いていった。
「ミチル先輩、おはようございますぅ。朝ご飯出来てますよ。一緒に食べませんかぁ?
それとお弁当も作っておきましたから、忘れずに持っていって下さいねぇ」
部屋と廊下を繋ぐドアが開くと、トレーの上に乗せた朝ご飯を持った志が、満面の笑顔でそこに立っていたのだ。
その姿はジャージから制服に変わっており、更に少し小さめのエプロンを着けた、まるで新婚ホヤホヤの新妻のようでもあった――
―― To the Next Cut ――




