Ep25 Chapter“1” Scene“5” Cut“7” Take“3” 天才軍師は唐突に
何本飲んだってビール如きじゃ、顔色一つ変わらない。こんなの水と一緒だ。酔えない――
自分が教え子から監視されていた事に改めて気付かされ、目の前にいる小学生にしか見えない高校生は必死に「普通」でありたいと求めている。
その遣る瀬無さが、ビールをただの苦い水へと変貌させていく。
私はなんで教師になったのか。自分はこの“瞳”に苦しめられた。だからそんな子供達に、“瞳”との付き合い方を示したいと思った。だからこそ“お兄ちゃん”と慕っていた杠には発現しなかったこの“瞳”の使い方を、教え子達に教えるのは自分の役目だった。
だからこそ、だからこそ、だからこそ……。夕樹菜はこうなってしまった“結果”に、自分を責め続けていた。
しかしその気持ちは……魔眼を持つ者の気持ちは、杠には絶対に伝わらない――
あぁ、戦争が憎い。なんで二大超大国はこんな事を初めてしまったのか。なんでこの国は巻き込まれなければならなかったのか。なんで卒業生達は、平穏な日常すら拒否されなければならなかったのか。
あぁ本当に遣る瀬無い。
こんな“眼”を持ってしまったばかりに……。あぁ全ての元凶“達”が実に恨めしい――
夕樹菜はかつての教え子達、その中でも生徒会執行役員の中で特に優秀だった一人の生徒を思い出していた。その名は森之木稜真。彼は非常に優秀だった。そして今回、ミチルを発見したのも彼の功績だ。
更に森園梓。彼女こそが『耳眼』のホルダーであり、恐らくここでの会話も筒抜けになっている可能性が高い。
こうなっては何も話せない。決定事項として「御劔ミチル」を学園に連れ帰る事は決まっているが、新たに分かった『偽眼』ホルダーの「三国志」までとなると話しが変わって来る。
それでは公算が大きく変わる――
「えっとぉ、ミコロが話してもいいですかぁ?」
苦悩の余り「もう黙っているしかない」と考えていた夕樹菜と、「普通でいたい」と願い、ただ嵐が過ぎ去るのを必死に待っていたミチル。そんな二人の静寂を破ったのは志だった。
「今は余計な事を言わ――」
「大丈夫ですよぉ。誰にも聞かれていませんからぁ」
夕樹菜は意味が分からなかった。彼女が知る『耳眼』の力は絶大だ。どんな些細な噂話も、それが小さな恋の話しでも見逃す事はない。それが森園梓という生徒の習性でもあった。
拠って彼女は、梓が「壁に耳あり障子にメアリー」と宣っていたのを今でも覚えいる――
「えっとぉ、それじゃあ代わりますね」
本当に意味が分からない。夕樹菜は『魔眼』以外の持つ“特性”を詳しく知らされていない。それはまだ、残る三つの“瞳”を解析する為の“被検体”が少ない事を意味している。
故に政府の“犬”たる各地の学園は、国家に恩を売り恩恵を得る為にも、それら三つの“被検体”を血眼になって探している。
だが、そんなコトを意に介さず、志の雰囲気は瞬時に変わっていった。
「お初にお目に掛かります。私の名前は孔明。ミコロに変わって簡単に現状の説明と、これからの策を貴女方に授ける事と致しましょう」
「こ……孔明?えっ?えっ?えっ?」
夕樹菜に動揺が奔っていった。そして、ミチルは怒涛の急展開に何も付いていけていない余り、目を白黒とさせていた。
ただし、ミチルからすれば、「もういいから早く終わらせて欲しい」と思っていただろうし、「早くお風呂に入って、推し活したい」と考えていたに違いないだろう。
「今現状、私の『空城の計』で、この場にいる皆々様方は敵から全て守られております。
よって本日、ミコロが直接的に関わった者達以外からは一切“認識”されておりません。だからご安心を。
そしてこれが“現状”。拠ってここからが今後の“策”。名付けて――」
斯くして全ての“話し”を聞き終え、ミチルの部屋から夕樹菜は帰っていった。それは偏に彼女が孔明の策に乗せられてしまったからだ。だがその表情は実に晴れ晴れとしていた。
そんな彼女は全てのビールを飲み干すと、颯爽と夜の街へ消えていった。
それは偏に、彼女の“憑き物”が孔明によって祓われたと言っても過言ではないからだ――
「で、なんでミコロさんは、ミチルの部屋に残ってるんですか?」
「だってぇ、もう12時過ぎちゃいましたし、終電も終わっちゃいましたぁ。それなのにミチル先輩は可愛い後輩を追い出すんですかぁ?う……ううぅ、あうぁぅぁぅ」
ミチルは通っている高校から、“特別”高等学校に編入しなくていい目処は付いた。そしてそれの功績は全て、志のお陰だ。否、正確には孔明の策が齎した手柄だ。
故に「終電を逃した」と言われれば、「タクシーで帰れ」と言う事も出来るが、その費用負担をする財力はミチルに無い。かと言って、志に負担させるのも話しが違う。
拠って、「今日だけなら……」と、ミチルは志を泊める事にしたのだった。
……が、これも早々に後悔する事になるが、ミチルは、まだその事を知らない――
―― To the Next Scene ――




