Ep24 Chapter“1” Scene“5” Cut“7” Take“2” 自己申告は唐突に
ミチルの殺風景なワンルームに、招かれざる異質な侵入者プレゼンツに因る大人な香水の香りと、酒と油の臭い、それと怪しげな雰囲気が充満していった。
「やる事は終わったのかしら?まだ何かをしたようには見えないけど?」
「もう、いいです。貴女と話しをして、そっちを先に終わらせる事にしました。どうせ、ミコロさん?も帰ってくれなさそうですし……」
ミチルは自分の髪と服に付いた油の臭いを取るためにも、お風呂は入りたかった。推しアニメは先延ばしに出来るが、執拗い油臭は現在進行形で襲って来ている。だからこそのお風呂だ。
……が、自分がこの部屋を留守にしている間に、“悪さ”や“イタズラ”をされても困るとも考えた。ちなみに、前者が夕樹菜で後者が志の事を示している。
夕樹菜はミチルについて「調べが付いている」と語っていた。それなら自分のお風呂タイム中に、機械的な装置を取り付けられたらどうしようもない。本人は「やってるから」とは言っていたが、プライバシーを侵害するような調査をしているのなら信用が置けるハズもない。
その前に名前も明かしていないのだから、疚しいコトがあると思うのも必然だ。
そしてそんな夕樹菜よりも、後輩の方が危険極まりない。さっきはサラッと聞き流していたが、彼女は「お昼から探していた」と話していた。何をそこまで自分に執着しているかは知らないが、もしも監視がいなくなれば、部屋を色々と物色し、何かを掘り当てるかもしれない。
ここはミチルの城であり、乙女の禁断の花園なのだ。流石に見られて恥ずかしい“黒歴史”はないが、見られて恥ずかしいモノは山のようにある。
よって“イタズラ”と一言で言っても、子供が行うような可愛い“イタズラ”ではなく、変態が行うようなタチの悪い“イタズラ”を身震いしながら想定している事だろう。
その結果、自分を犠牲にしてでも、厄介事を先に終わらせる事を決意したのだった――
「そう?それならいいわ。じゃあ、単刀直入に話すわね。貴女、私が教師を務める学園に編入なさい」
「やっぱりそう来たか」と、ミチルは思うしかなかった。目の前の女性が“教師”であるという事には驚きを隠せなかったが、出会いが“瞳”に関連している以上、その流れは予感していた。だからこそそれは勧誘ではなく宣告だ。それもとびっきりの宣告。
しかしミチルは、「普通の高校生でいたい」のだ。それじゃなきゃ、親と縁を切ってまで上京してきた意味が失くなるし、面倒を見てくれた“おばあちゃん”や、別れを悲しんでくれた友人達に合わす顔がない。
「ミチルは普通の高校生になる為……普通の高校生として過ごす為に、この街に来ました。だから特別高校に編入なんてしません」
夕樹菜は想定していた。“学園”が保有している“執事”達が発見出来なかったのだから、この娘はこれまで必死に隠してきたのだろう……と。だからこそ、“特別”高等学校の意味も理解しているのだろう……と。
今が数年前なら「そんな事はない。我が学園であれば辛い事なんて何一つ無い。心配する必要は皆無だ」……と、言えただろう。だが今となってはそれは“世迷い言”だ。戯言だ。戯れ言だ。嘘っぱちだ。
しかし、これは国家が決めたシナリオ。学園側が政府の犬である以上、その命令には逆らえない。既に決定した事項なのだ――
「あのぉ……ミチル先輩は『中二病』なんですかぁ?」
――ッ?!――
志のその何気ない発言で、一瞬にして場の空気が凍り付いていった。
何故ならばその病名は、当事者にしか分からない名前だからだ――
――イジュウランスインの光に因って、多くの中学二年生がこの病を発症したが、『中二病』という名前が正式な病名として公に記された事はない。正式には「厄災の光付随性精神疾患及び特殊能力発現症候群」、通称「厄特症」と呼ばれている。
しかし、多くの患者達は「厄特症」という忌まわしい名前を嫌い、自嘲と誇りを込めた暗号のような名称を自分で考案したのである。それが『中二病』という名称だ――
「まさか、アナタも『魔眼』ホルダーなの?でも、それならなんで『点眼』の包囲網を掻い潜れ――まさかッ!『偽眼』ってコト?」
イジュウランスインの光の変質によって生まれた『魔眼』以外の情報は秘匿され、公言としての発言には制限が掛けられている。だからこそ、夕樹菜は慌てて口を押さえた。
恐らく昨日の杠の行動から察するに、自分もまた監視されているのだろう。余計な事を口走ればそれも聞かれる恐れがある。
“視る”事に特化した『点眼』とは異なり、どんなに離れた場所の会話でも、視界に収めたエリアは壁越しにでも聞く事が出来る。『耳眼』とはそういう能力だ。
そしてその『耳眼』が学園側の人間という事は分かっている以上、全て杠に筒抜けになる。
夕樹菜は「やってらんないわね」と心の中でボヤき、既に五本目となる缶ビールを一気に空けた――
―― To the Next Take ――




