Ep23 Chapter“1” Scene“5” Cut“7” Take“1” 酒宴は唐突に
「それで、アンタは誰?なんでこの場所まで付いて来ているの?」
ここはミチルの部屋。「もう、どうにでもなれ」……と、いうのがミチルが出した答えだった――
――と、その前にこの状況に付いて時間を追って振り返ってみよう――
「御劔さん、コレは一体どういう事?!」
現実逃避のため調理場に駆け込んだミチルは、次から次へとフライヤーを稼働させた。今日の相方の佐藤が訝しんで調理場に乗り込んだ時には後の祭り。“揚げ物地獄”は完成の陽の目を見る直前だった。
その状況下に於いて、更に店長が出勤して来たのだからミチルは揃いも揃って説教される始末。斯くして「前門の夕樹菜、右方の志」の構図は一変し、「前門にも後門にも、右方にも左方にも店長」という圧力の前にミチルは「ごめんなさい」と、しょぼくれて謝る事しか出来なかった。
しかし救いの声は唐突に現れる――
「店長さん、彼女が揚げたモノを私が全部購入致します。だからそんなにお説教をしないで下さいな」
それは店長からしても、ミチルからしても、ひいては“店”からしても“神の声”と言わんばかりの救済だった。そして、その声の主は当然の事ながら夕樹菜である。
――斯くしてミチルのバイト後――
「さぁ行くわよ!」……と、突然声を掛けられたミチルはビクッと肩を震わせた。振り返るとそこには二つの影。
「え……えっと、どこにでしょうか?」
「決まってるじゃない、アナタの家よ!まさか、イヤだなんて言わないわよね?これだけの量の揚げ物を一人で食べろ……なんて、そんな薄情な事を言うなら……どうなるか分かってるわよね?」
夕樹菜の瞳が怪しく輝こうとしていた。それと同時にミチルは咄嗟にあの夜の息苦しさを思い出す事になる。それは即ち、断れないという無言の圧力だった。
それに加え、自分のやらかしを被ってくれた“証拠”を、これみよがしに見せ付けられては、「イヤだ」と直球で返せるハズもない。
そしてその免罪符が家に上がり込む為の非常に強い強制権を持っていた。
「ミチルの家にはその……そう!親がいるので、この時間に――」
「ざぁんねん。調べはとっくについてるの。アナタは独り暮らしでしょ?」
完全にぐうの音も出ない。「イヤだ」と言えないからこそ、相手が「それなら仕方がない」と言う事を期待して吐いた嘘も、簡単に見抜かれてしまった。こうなってはもう、どうしようもない。
そしてそれと同時にあの日、自分の力を使った事を酷く後悔したミチルがいた――
「へぇ、ワンルームにしては、なかなかいい部屋じゃない!」
ミチルは完全に折れた。それ故に夕樹菜を部屋に上げる事を選んだ。だが、そんな夕樹菜の手に持つ袋に違和感を覚えていた。
何故ならば、揚げ物を買っただけにしては量が多過ぎるからだ。
「ここが、ミチル先輩の部屋ですかぁ。なかなか殺風景で素敵ですぅ」
――ッ?!――
……と、ここで冒頭に戻る。要するに……だ。ミチルからしても、夕樹菜からしても、「招かれざる客」がいたという事を示している。
「ミコロは、ミチル先輩の後輩で、一年の三国 志って言いますぅ。それにしても、お昼からミチル先輩を探していた甲斐がありましたぁ!」
「あぁ、もうッ!そんな事は聞いていないの!だからね?学生はこの時間、外を出歩いていい時間じゃないってコト。連絡してあげるから、親御さんに迎えに来てもらいなさい!」
ミチルはモヤっとしていた。「それならなんでアンタは、袋一杯に酒を買って、ミチルの部屋に持ち込んでいるんだ?」と心の中で叫んでいた。
まぁ負い目がある以上、天と地が引っくり返ってもそんなコトを言えるハズもない。
「迎えは大丈夫ですよぉ。だって、いませんから」
志の瞳に怪しい光が宿り、「いませんから」と話したその薄ら寒いトーンに夕樹菜は、異常性を感じ取っていた。
「貴女……まさか――」
「それよりも、そんなコトはどうだっていいじゃないですかぁ。ミコロはミチル先輩と仲良くなりたいだけなんですぅ!」
「ふぁッ?!」だった。これはミチルの心の声である。だからこそ、“ド”でも“レ”でも“ミ”でもない――
結局、ミチルは二人を追い出す事が出来なかった。夕樹菜には負い目があり、志はのらりくらりと躱していく。本当にやりにくい相手だった。だからこそ、二回目の「もう、どうにでもなれ」となる、完全敗北の道しか残されていなかった。
「それで、ミチルになんの用なんですか?その話しをさっさとして下さい!ミチルだってやらなきゃいけないコトが、まだまだあるんですッ」
「じゃあ、いいわよ?先にソレやって。私はその間にやってるから」
――ぷしゅッ
夕樹菜の手に握られていたのは、缶ビール。それを豪快に開けるとグビッと喉を鳴らし、「ぷはぁッ!ん〜〜〜キクぅ」と未成年にはまだ分からない奇声を上げていた。
ミチルの推し活の為の平穏な夜は帰って来ない。もう投げ遣りになるしかなかった――
―― To the Next Take ――




