Ep22 Chapter“1” Scene“5” Cut“6” Take“1” 現実逃避は唐突に
ミチルは心の中でボヤいていた。いや、叫んでいた。「なんで、こんな事になったのーーーーッ!」と。
店のジャジーなBGMが聞こえない程、ミチルの心音はかつてない絶望のビートを盛大に刻んでいた――
――事の始まりは遡る事、十五分前――
「いらっしゃいま……げッ」
客はこちらを見ないまま商品を出した。ミチルはその缶コーヒーを取るとバーコードを読み取り視線を上げた。客の視線はその手に持っているサイフの中身を凝視しており、ミチルを見てはいなかった。
しかし視線を上げたミチルの瞳にはしっかりと客の姿が映っていた。そうあの日、「全力ダッシュリアル鬼ごっこ」を繰り広げた相手の“メリーさん(仮称)”だった。
そして、この時に漏らした「げッ」が、客に違和感を持たせ、その視線をミチルに向けて呼び込んだ事に変わりはなかった。
「おまッ!御劔ミチル……か?」
「ななな、ナンノコトデスカー?ワタシ、ニホンゴムズカシイデース」
最近、この辺りでも外国人が多くなっている。戦時下でありながら、未だ「平和な国・日本」と勘違いしている観光客は意外と多い。よって、そんな外国人“風”壊れかけのロボットみたいな真似をしてミチルは、この場を切り抜けようと考えたのだろう。
「こんな店でバイトをしていたとはな。話しがある。ちょっといいか?」
「ワタシ、ニホンゴワカリマセーン。ソレニ、バイトイソガシイデース」
明らかに日本語を理解した上で会話をしているのがバレバレだ。そして、夕樹菜はそんな事を意に介さず、ミチルの胸元を指差していた。
そこに確たる証拠が示されているからだ。従って、セクハラ行為というワケではない。
「お前、そこに『ミチル』って書いてあるぞ?」
がびんッと、ミチルに稲妻が走った。まぁ、当然と言えば当然なのだが、そんな事で乗り切れると思っていたとは、中々にミチルの頭は宜しくないとしか言いようがない。
「あぁぁぁぁッ!ミチル先輩!こんなところでバイトされてたんですかぁ!」
「げげげッ!……って、アレ?ミチルが『先輩』なの?」
ミチル、再びの驚愕。しかしそれは「先輩」と呼ばれたからではない。「メリーさん」の後ろに並んでいたのが、あの夜の独り言パントマイム女であり、昼休みに屋上にやって来た「(背が高いから)先輩」だと思っていた同じ学校の生徒であり、結果として自分が「鈍器」を投げ付けた相手だったからだ。
要するに、この女がいなければ、「メリーさん」に追われる事もなかったという事になる――
前門の夕樹菜に後門の志。いや、正確には前方の夕樹菜に右方の志という“関門”がそこにあった。ちなみに後ろは棚で左方は調理場。拠って、バイトを放棄して逃げ出そうにも、逃げ道は全て塞がれている。
まぁミチルは、バイトに自分の生活が掛かっているので放棄するような真似は絶対にしない――
ちなみに志は、午後イチでこの新町に来て約七時間彷徨っていた。その結果、空腹を満たす為にたまたま“ばすまいけっと”に足を踏み入れ、これまたたまたま夕樹菜の後ろで「BLTサンドイッチ」を持ってお行儀よく並んでいただけだった――
要するに普段のオドオドしてるか、清楚な感じかで声の掛け方は変わるのだろうが、今日に限っては七時間歩き回った疲れから、極限状態“ハイテンション”になっていた。
その挙句に、意外な場所で会いたかったミチルを発見した事で、直情的✕ハイテンションの効果によって、声を高々と挙げてしまったのだ。
簡単に言ってしまうと、これが友達を失う結果を齎した素の志という事になる。ハイテンションだからこそ、“素”の状態がありありと見え隠れするのだろう。
それはさておき夕樹菜は、志の援護射撃の甲斐もあって、これみよがしに、「御劔ミチルで確定だな」……と、勝利を確信したように口角を上げ、ミチルを見据えたまま言の葉を紡いでいた――
「佐藤さーん!ちょっと分からないんでレジお願いしまーす!ミチル、揚げ物してきまーすッ‼」
ミチルは咄嗟に、もう一人のバイトに助けを求めていた。どうやらミチルは、パニックになると「全力ダッシュリアル鬼ごっこ」が始まる前の時のように、よく分からない事を言うらしい。
よって夕樹菜の会計をほったらかし、志の事は見て見ぬフリを決め込み、そのまま調理場へと消えたのだった。
簡単に言うと「戦略的撤退」という名の「現実逃避」と言っても過言ではない――
心の中でいくら叫んでも解決策を見出す事はない。かと言って、「どうしよどうしよyyy」と呪文を唱えても意味は無い。
大好きな推しアニメにも、こんな展開はなかった。拠ってミチルは、何も考え付かないまま、ただひたすらに揚げ物を揚げ続けていた。
これが、夜勤の店長がやって来る直前の出来事。ミチルのバイト終了時刻の三十分前。更に言うと、客足が減る頃合いであり、そんなに揚げ物を用意する必要もない時間だったという事だ――
―― To the Next Cut ――




