Ep21 Chapter“1” Scene“5” Cut“3” Take“1” 隠し事は唐突に
その日の夜、夕樹菜は再び新町を訪れていた。『点眼』から受け取った情報を頼りに、この街に初めて足を踏み入れたのが二日前。
本来なら今日も“バー”で飲み明かしたい気分だったが、全ての講義を終えて学園を出ようとした折、改めて杠から釘を刺されてしまった以上、それは叶わない。
拠って彼女は奮起し、二日連続“失態”の汚名返上と言わんばかりに、ターゲットである「御劔ミチル」を探していた。
「御劔ミチル」という名前、通う高校名、それらは今日の午後に『耳眼』から齎された情報だったが、その中に住所は含まれていなかったからこそ、その自慢の美脚を使う以外に方法はなかった――
『点眼』の主も『耳眼』の主も、学園が抱える“執事”ではない。彼らは“元”生徒会執行役員のメンバー即ち、学園の卒業生だ。だから元々は、夕樹菜の教え子と言える。
だが今となってはその“肩書き”を公に出す事は出来ない。
全国各地にある“特別”高等学校は、2026年の開戦を境に政府の“犬”に成り下がった。それまでの卒業生達も全員、国家の影に消える形で表面上は消息を絶っている事になっている。
それはイジュウランスインの光が齎した功罪だった――
「まったく、いつまでこんな状況が続くのかしらね?
報道機関も政治家連中も、開戦以来、戦時警報を流すだけでそれ以外は全部黙秘を貫いてるし、このままじゃ、卒業生達がどうなったのか分からないじゃない!」
夕樹菜の脳裏に浮かぶのは、かつての共に過ごした卒業生達の笑顔。夕樹菜の思い出の全ては、酸いも甘いも含めてあの学園で過ごした日常だったと言っても過言ではない。
だが彼女にとって、学園からの命令は絶対。そして政府からの命令に学園は逆らえない。そうなった以上、夕樹菜は身を粉にしてでも杠の期待に添わなければならない。
「杠も、昔は優しいお兄ちゃんだったのにな」本人の前では言えない戯言をボソッと吐き出した彼女は、渇いた喉を潤す為に、たまたま見付けた一軒のスーパーへと足を踏み入れていった――
―― To the Next Cut ――
昨夜の件は二人で話し合った結果、志とチノイロレッドの二人だけの秘密になった。何故ならチノイロレッドは、志の二軒隣のお隣さんだったからだ。それもヒーローにあるまじき不法占拠という形を取っている。
彼の言い分としては、「ヒーローの本拠地は敵に知られるとマズい」からだそうだが、その時の説明はどこか声が上擦っていたように思えていた。
逆に志にも秘密がある。それはこの家に住んでいる理由と、自身の“眼”の事だ。彼女はそれを全てチノイロレッドに明かしていないし、話すつもりもなかった。
だから話しを濁し、心の内にある“仮面”で覆い隠していた。
斯くしてチノイロレッドと別れ、部屋に戻った志は、さっきのお礼をするべく、孔明を喚び出す事にした――
志は一夜明け、今日はいつも通り登校する事に成功した。そこで先日実行出来なかった「今日こそはミチル先輩とお近付き作戦」を、再び実行に移す予定にしようと考えた。何故なら一躍“時の人”になった志だが、一日経つと囲まれる事が無くなっていたからだ。
……が、どうやら昨日の“SNS投稿”はまだ尾を引いているらしい。従って学校側は未だ対応に追われ、結果として午後から休校の通知が全校生徒に為された。
結果、「自分流十面埋伏」は、またまた陽の目を見る事はなかったのだった――
「午後から学校がお休みなら、それはそれでミチル先輩を探しに行きましょう!そうすれば偶然を装ってバッタリお会い出来るかもしれません」……と、非常に前向きに且つ、ミチルの自由意思を害する可能性のある考えを志が持ったのは、午前の終わりを告げる鐘の音が響いた頃だった。
ホームルームが終わると、「善は急げ」とばかりに彼女はダッシュし、前にミチルと偶然遭遇した新町へと向かったのである――
―― To the Next Cut ――
軽快且つ、ジャジーなBGMが流れる店内。群青色のエプロンと同じ色のバンダナを頭に巻いて、ルンルン気分でバイト中のミチルがそこにいた。
“ばすまいけっと”はコンセプトが「コンビニ“風”スーパー」だが、一つの店舗にいる従業員はコンビニと変わらない。だから今日はミチルの他にはあと一人だ。
よって二人で効率良く品出しと接客を熟さなければ、夜勤でやって来る店長から“お小言”を貰い兼ねない。
従って、バイトでは特にラクをしたいミチルは、“ばすまいけっと”をメインのバイト先に選ぶつもりはない……が、ここに来る客はミチルイジリをして来ない。それだけは“業スムーパー”より勝っている唯一の美点だった。
あと二時間でバイトは終わりを迎える。そうしたら家に帰ってお風呂に入って、さっき見た推しアニメの「エキハホロニナチテ」の謎をネット頼りで解き明かして、優越感に浸ってみようか……などと考えていたその矢先の事だった――
―― To the Next Cut ――




