Ep19 Chapter“1” Scene“5” Cut“2” Take“1” 戦隊ヒーローは唐突に
「結局、ミチル先輩とお近付きになれませんでしたぁ。まさかこんな事になるだなんて、散々ですぅ」
今朝の志登校風景は瞬く間にメガトン級爆弾の爆風のように、瞬く間に学校中に知れ渡っていた。その結果、職員室にも呼び出されるに至る。
きっちりみっちりと担任からお説教を頂いた事実は、いくら超前向き思考の塊と言える志にもグサリと響いた。
だが話しはそれだけで終わらない。二度に渡る“計略”の暴発があったのだ――
クラスに戻ればクラスメイト達が、廊下を歩けば他クラスの同学年や上級生達が、こぞって志に、今朝の一件を根掘り葉掘り聞いて来た。
終いにはSNSに投稿された動画が発端で、教師連中総動員でその対応に追われる事となり、本日の授業は自習となる始末。
これはまるで、ミチルとお近付き作戦で行った「駆虎呑狼」が、志に意図せずその規模を大きくして“暴発”し、襲い掛かったかのようだった――
結局この日、授業は全て失くなった。更には自習となり、今朝同様の“囲み”が志の周囲に形成されていったのだ。
それでは寝落ちしてまで考えた「自分流十面埋伏」が陽の目を見ない。そして次から次へとやってくる“囲み”はまるで「十面埋伏」の如くであり、自分でそれを味わったかのようだった。
因ってこれが二度目の暴発だ。
斯くして放課後、志はとぼとぼと歩いていた。その背中は丸まり、凛とした清楚な姿は微塵もない。
視線は落ち、前を向いて歩く気力もなかった。よほど疲れていたのだろう。
――ドんッ
「キャッ!」
偏に既視感というヤツだ。今朝起きた“衝突事故”と同じ展開にも思える。だが、今回ぶつかった相手は違った。
「なんだぁネェちゃん!痛ぇじゃねえか!」
「あ……あ……ご、ごめんなさい」
ここは志の家の最寄り駅近く。下を向きながら歩いていた彼女は、駅前にたむろしていたガラの悪い不良達の中に無意識に突っ込んでしまったのだ。
よって蛇に睨まれた蛙の如く志の足はガクガク震え、その震えは全身を揺らしていた。
「おぅネェちゃん。いい乳してんじゃねぇか。そんなカッコで揺らしてるなんて、誘ってるってコトだよなぁ?」
志は身体の震えを止めるべく自分を抱き締めるように腕を回したが、その事が逆に仇となっていく。
「い……イヤです。や……やめて、下さい」
下卑た視線が志を舐め回し、口からにゅるっと這い出た舌が志の恐怖を駆り立てていった。
「イヤでもなんでも構いやしねぇんだよ!いいからこっちに来いよ!それとも、ぶつかって「ごめんなさい」だけで許してもらえるなんて思ってねぇだろうなぁ?」
脚が産まれたての小鹿のように震える。イヤラシイ視線が胸に刺さり呼吸が苦しい。周囲にいる大人達は、目を背け足早に去っていく。自分を助けてくれる人間は誰もいない。志の中に絶望感がひしめいていく。
どうしよう助けて助けて、声にならない声は恐怖によって、口から先には出てこない。助けを求めなければ誰も助けてくれない。助けを求めても、誰も助けてくれないかもしれない。
そうこうしているうちに不良の手は眼前に迫っていた――
『志、走るのです。そこから左に。振り向かず、ただひたすら前だけを見て走るのです』
声が聞こえた気がした。「お兄ちゃん」が教えてくれた『三国志』の中で志が憧れた天才軍師。その人の“声”が聞こえた気がした。
気付けば志は駆け出していた。不思議と震えは止まっていた。だから言われた通りに前を向いて一心不乱に走った――
――ガシッ
「いい加減に待ちやがれ!逃げられると思ってんのかぁ?」
「痛ッ!ヤメて離して!」
暫く走ったあと、結果的にその腕を掴まれてしまった。日頃の運動不足や、二つの大きな重りが災いしたのだろう。そんな志は“声”を信じて走ったのに……と、絶望感に苛まれそうになっていた。
……が、“声”に勇気をもらった以上、ブルブル震える小鹿ではなくなっていた。だから必死に助けを求めた――
しかし志が住んでいるこの周辺は、戦争の爆撃で原型を留めている家はほとんどない。だからこそ、誰も住んでいないのだ。因って、叫んだところで助けてくれる人は最初から誰もいない。
「へっ!こんなおあつらえ向きの場所まで逃げてくるなんざ、やっぱり誘ってたんじゃねぇか!」
「キャーーーーッ!ヤだ、ヤメてッ!」
手を捕まれた志は半壊した空き家に連れ込まれ、強引に押し倒された。彼女の背中に鈍い痛みが奔り、その痛みは小さな勇気を消し飛ばすには充分だった。
「お願い……します……から。ひっくえっく……」
ぞろぞろと集まってきた不良達の下卑た笑いが木霊していく。志は抵抗する勇気を完全に失っていた――
「やめないかオマエ達ッ、とうッ!」
「んだテメェは!」
「俺か?俺達は“セイギノミカタ”多分戦隊ジャスティスファイブッ!悪事はこの俺、チノイロレッドが許さないぜッ!!」
それは場の空気感が瞬間的に冷え固まった決めゼリフだった――
―― To the Next Take ――




