Ep17 Chapter“1” Scene“4” Cut“2” Take“2” ミーハー心は唐突に
――しゅたッ
「さぁ着いたぜ。ここだろ?アンタの学校」
お姫様抱っこで抱えられた志が、自分の高校の前に降り立ったのは奇跡的な時間だった。だが空からの登校というその衝撃映像は、周囲にいた生徒達に目撃され、パシャパシャとシャッター音が重なって響いていた――
生まれて初めて空を飛んだ志は、終始「あわあわ」と声にならない声を上げながらも、必死に口を閉じていた。そんな自分の足が笑っている事に気付かないまま正門の前に降り立ったワケだが、“赤い人”はそんな事を気にする様子もない。
まぁ実際正確には「飛ぶ」ではなく「跳ぶ」が正解だ。電車で一時間掛かる距離を、“赤い人”は空を“跳躍”しただけ。よって、何回も着地とジャンブを繰り返していたワケだが、その“滞空時間”は常人のそれとは遥かに異なっていた。
「それじゃ俺はこれで。走る時はちゃんと前を向いて、登校は時間に余裕をもってヨロシクなッ!」
――しゅたッ
「あっ、待ってく――」
“赤い人”は、現れた時と同様に唐突に去っていった。
志は学校に間に合った事にお礼を言おうとしたが、それは叶わず、名前を聞く事も出来なかった。そんな志は囲まれた。
そう、衝撃映像の目撃者となった生徒達に……である。
志の家にはテレビがない。スマホやインターネットだけでなく、テレビまで無いのだから情報源は無い。昨今の、お茶の間を賑わせている「戦隊ヒーローのコスプレをした人」の存在を知る由もない。
いや、記憶の片隅には数日前の登校中にすれ違った際に、風圧でスカートが捲れ上がった気がしなくもないが、あの時はスカート以上に本人が浮かれていたのでよく覚えていない。
そんな事よりも、日頃教室で基本的には誰からも話し掛けられない志が、ミーハーな生徒達に囲まれたのだ。
これは軽いプチパニックを齎していた――
あと十分もすれば学校の鐘が鳴る。ひいこらひいこら言いながら、“二つの絶望”に打ちひしがれたミチルが、その盛り上がっている囲みの脇を、頭に“?”を浮かべたまま通り過ぎていた。
これが、ミチルがサブスクお試し期間を契約してハッピーになる朝の出来事であり、自身が都市伝説として語られ始めている衝撃を受ける直前の出来事である――
―― To the Next Cut ――
「夕樹菜、二日酔いにはなっていないか?」
「その……よく覚えていないのですが、学園長が私を連れ帰ってくれたのでしょうか?いえ、その……朧気に覚えていることはあるのですが……」
ここは『私立森林之木学園特別高等学校』の学園長室。職員会議が終わった後で木之下 夕樹菜は、学園長である木之杜 杠に呼び出されていた――
昨夜、夕樹菜を抱えていたからこそ出来なかった事を、杠は“今”しながら、フカフカの椅子に腰を掛けその瞳を夕樹菜に向けていた。
彼は夕樹菜の言い訳に対して、「ふぅ」という深い溜め息と共に白い煙を吐き出していく。それはむせ返るほど甘く濃厚で芳醇なアロマを、部屋に充満させた。
そしてその手は端正に整えられた髭を撫でている。
「酒はほどほどにしておきなさい夕樹菜。流石にアレは、淑女の嗜みとは言えない」
杠の冷たい叱責が夕樹菜の身体を、一瞬だけ借りて来た猫のように震えさせていた。昨夜と違って、上着が彼女を締め付けているせいか追従してくる振動はほとんどない。
「本当に申し訳ありませんでした、学園長。それで、その事を言う為にわざわざ私を呼び出しのでしょうか?」
「うむ。それだけならば気は直ぐにでも晴れていただろうな。
さて本題だ。彼女の目は本当に『真眼』だったのか?『偽眼』ではないのか?それと彼女と実際に話してみた感想を忌憚無く話して欲しい」
昨夜の負い目がある以上、「報告書に書いた通りです」と言える夕樹菜ではない。そしてそれと同時に昨夜、飲んだくれた原因となった「マッハメリーさん」が再び頭に浮かび気が重くなっていった。
今夜も酒が美味しいかもしれない……と、彼女は考えたコトだろう――
――イジュウランスインの光は、中学二年生の男女にしか現れない――
――しかし一度発症すると、本人が望む望まないに関係無く、その『力』が消えることは無い。重症化すると精神がその『力』に引き摺られていく――
――イジュウランスインの光が齎す『力』は、発症した本人の『瞳』に宿る――
――そして長い時を経て、イジュウランスインの光の齎す『力』は性質が変わっていった――
――かつて齎された『力』を宿した『瞳』は『魔眼』と呼ばれた。それは“視た”モノに対して様々な効果を齎す『力』だった――
――しかし、変質した結果、現状では『魔眼』以外に『邪眼』『偽眼』そして『真眼』が確認されている――
――2026年に超大国間で勃発し、巻き込まれた戦争を“契機”として日本政府は、これまで「気を隠すなら森」として、そんな『魔眼持ち』達を匿う隠れ蓑だった『特別』高等学校に目を付けた――
―― To the Next Scene ――




