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ミツルとミチルとミクニとミコロ 〜 Romance Trium Regnorum et nobilis gladius 〜  作者: 硝酸塩硫化水素


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Ep14 Chapter“1” Scene“4” Cut“1” Take“1” 強制終了は唐突に

 ――カラン、カララン


 ロックグラスを泳ぐ丸くカットされた氷が、ガラスに触れる事で心地よい音を奏でていく――


 ここは都心の片隅。琥珀色のライトが落ち、そのムーディーさに(いざな)われた紳士淑女が色褪せること無い愛を囁き合う()()()バー(社交場)”。

 そのカウンターで()()、木之下夕樹菜(ゆきな)()()()()()()()()

 彼女はもう何度グラスを空けたか覚えていない。それは二十年近く熟成されたウイスキーの飲み方ではない。


 店のバーテンダーは、一人で来た女性客が()()()()()なる事を“善し”としない。……が、この客は何度空けても酔っている素振りを見せなかった。

 だから言われるがままにウイスキーを提供していたのだが――



 この(女性)が店に入り、飲み始めてからかれこれ二時間。時刻は21:00を過ぎた辺り。夕方過ぎにやって来た客は軒並み夜の街に消えた。次のピークは終電後になるだろう、そんな暇な時間(アイドルタイム)

 他に客はおらず、たった一人で静かな時を過ごしていたこの女性客は突如として豹変した。


「今度はだぶルでぇ!」


「お客様、だいぶ酔いが回っていらっしゃるようですので、そろそろお止めになった方が」


 女性の見た目は非常に美しい。年齢は三十手前くらいに見える。今、バーテンダーがいる位置からは見えないが、店に入って来た時に見えたタイトなミニスカートと、床をコツコツと叩くハイヒールの音は、それまで淑女に向けられていた視線を根こそぎ奪い去っていった。


 彼女は席に着くなり上着(ジャケット)を脱ぎ、淡いピンク色のブラウスの上から二つ目までのボタンを外し、豊満なその胸元を()()()()()()()強調しているかのようだった。


 日本人離れしたターコイズブルーを想起させる髪色にエメラルドグリーンに輝く瞳。厚みのある柔らかそうな唇に引かれた情熱的な色合いのルージュがそれらを際立たせ、その魅力に抗えない男性はいないだろうと(バーテンダー)は感じていた。


 彼女は「シングル」という一言しか紡がなかったが、その容姿同様に艶やかな色気を孕む声に(バーテンダー)の気持ちは昂ぶらずにはいられなかった。

 もしも自分がカウンターの内側におらず、この店の客であれば()()()()声を掛け、あわよくば……を期待してしまっていただろう。

 そんな(バーテンダー)の独占欲を煽るほどに毒々しく美しい彼女が何を抱え、何を忘れたくて飲んでいるのか……それは、夜の静寂だけが知っている。


「いいから、早く持ってこぉぉい。わらしは飲みたいんら」


 ――カララランッ


 「呂律が回らなくなった女性に提供出来るウイスキーは無い」……と、彼女の事を思ってそんな言葉を紡ごうとした時、店の扉の上に付いている小さな(ベル)が新たな来客を告げた――



 ―― Return to Previous Scene ――



「孔明せんせぇ……ミコロ、失敗しちゃいましたぁ。慰めて下さいいぃぃぃ」


 執拗に痛む頭を押さえながら、真っ暗な夜道を背を丸めて歩いた帰り道。(ミコロ)は家の玄関を開け、「ただいまです〜」と虚空へ声を投げるとそのまま自室へと向かった。


 そして部屋に入るなり自身の精神的支柱とも呼ぶべき孔明を喚び出したのだった――



 鈍器の直撃を脳天に受けた(ミコロ)の記憶は、電車に揺られ少しづつ形を取り戻していった。だから、部屋に入るなり今日の結果報告となる独り言劇場が開幕した――



(ミコロ)、どうやら貴女も『幼常』と同じ末路を選んでしまったようですね」


「せんせぇ……それを言われると返す言葉もありません。ううあぅぅぁぅぁぅ」


 孔明は(ミコロ)を責めているワケではない。もしもそうなら冷酷な視線と共に死刑宣告となるだろう。しかし少なくとも孔明にそのつもりはない。いやむしろ「どうでもいい」と考えているのかもしれない。

 従って、泣きべそを掻いている(ミコロ)を慰める事も、優しい声を掛ける事もない。


「早速再び(わたくし)を呼んだ理由をお聞かせ願えますか?まさか、失敗した報告だけ……なんて事はございますまい?」


 (ミコロ)はその冷たい言葉と冷徹な眼差しに()()()()したが、先手を打たれては「甘えたかった。慰めて欲しかった。よしよしして欲しかった」などと()()()()ハズもない。


「そ……その、あのですね。ミチル先輩とお近付きになる為の次なる策として、「十面埋伏」は如何がでしょうか?」


(わたくし)、嫌な予感がしておりました。やはり……()()()()()()()


 (ミコロ)が孔明を喚び出した際、前回の詠唱とは異なっていた。前回の上屋抽梯(じょうおくちゅうてい)は『兵法三十六計』であり兵法書を学んだ孔明は理解している。だが「十面埋伏」は違う。それは兵法書ではなく個人が発明した計略だ。


「いいですか(ミコロ)(わたくし)発明したもの(編み出した計略)ならいざ知らず、いくら(わたくし)と雖も、他者が扱った計略全てを網羅している訳ではありません。

 この場合は仲徳(ちゅうとく)こそが適任でしょう。それでは」


 斯くして(ミコロ)の甘えんぼタイムは強制終了した。甘えたい一心で繰り出した策が仇となり、孔明(唯一の相談相手)は光の中に消えていく。


 残ったのは、頭の鈍痛と疎外感だけだった――



 ―― Return to Previous Cut and Proceed the Next Take ――

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