Ep11 Chapter“1” Scene“3” Cut“1” Take“1” 完全迷子は唐突に
――それは三年程前に遡る。ミチルは当時14歳。
「中学生になれば身長が伸びるはずだから」という言葉を信じて大きめの制服を買った一年後。未だにどこのサイズにも変化が見られず、自分を追い抜いていく級友達を恨めしげに見ていた、そんな中学二年生。
そんな中である日突然、自分の両目に“違和感”を覚えた――
――その“違和感”を感じた瞬間、ミチルは恐れた。その“違和感”を認めてしまえば、「どうなるのか」
かつてテレビの向こう側で見た、自分たちとは異なる「力」を持った者たちの末路――
――それがバレたら、仲の良い友達とサヨナラしなくちゃならなくなる。そしてそうなったら、多分もう二度と会えなくなる。
一生の別れなんてイヤだ――
――だからミチルは、幼い知恵を必死に絞って抗った。どうすれば一生の別れにならないか?その方法を。
そして考え付いた。高校受験を機に県外に出て、ほとぼりが冷めたらまた戻ってくればいい――
――ミチルは中学三年生になり、高校受験に際して親に相談した。結果は猛反対。だからミチルは盛大に反発した。それはもう「思春期だから」で済ます事が出来ないくらいの反抗期になった――
――それから親とは一切連絡を取っていない。連絡を絶った両親に代わり、住む部屋を見付けてくれたのも、高校の入学金を払ってくれたのも、その制服を用意してくれたのも全部、おばあちゃんだ。
だから尚更、「普通の高校生」としてこの学校を卒業すると決めていた――
―― Return to Previous Scene ――
「待ちなさあぁぁぁぁい!」
「さっき自分で言ってたじゃないですかあぁぁぁぁ」
「全力ダッシュリアル鬼ごっこ」が始まってから、どれくらいの時間が経過しただろう。
バイト帰りで疲れているとはいえ、捕まればどうなるか分かっているからこそ、疾走って逃げる以外の選択肢はない。
逆にOL風の女性の執念も凄まじい。履いてるのはハイヒールにも拘わらず、全力疾走しているミチルとの距離は開いていない。これが走りに特化したスポーツシューズであれば、ミチルは難無く捕まっていたことだろう。
そして、(見た目)小学生とOL“風”の全力ダッシュに付属している言い合いは、閑静な住宅街に残響音となって語尾だけが長く木霊していた――
「逃げていいなんて言ってなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁいッ」
「待てと言われて「はい」と言うなら、最初から逃げませんんんんんんんんッだ」
完全に近所迷惑な二人である。まだ真夜中にはなってないが、深夜帯には変わりはない。そんな時間帯に叫びながら全力疾走しているのだから、これは至って普通の通報案件であって、普通の高校生が行う事ではない。
そしてその内容もどこか子供じみているような気がしなくもない。よって、この光景を住民が見届けてしまったら、『髪を振り乱し、小学生を追いかけ回す怪異』として都市伝説になっていたかもしれない。
「あぁ、もう!走りながらじゃ私の『近眼』が使えないじゃない!こんな事なら拘束を解くんじゃなかったわ。
次こそは絶対に捕まえてやるんだからッ!」
そんなこんなで第一回「全力ダッシュリアル鬼ごっこ」はミチルの勝利に終わった。途中まではいい勝負だったが、ジワリジワリと差は広がりを見せ、気付けばOL風の女性の視界から、ミチルの姿は完全に消え失せていた。
こうしてOL風の女性は負け犬の遠吠えを以て踵を返し、その姿を宵闇の中に溶け込ませていった。
「やったぁ、逃げ切れたぁ。それにしてもあぁ、疲れた。こんなに走ったの久し振りだぁ。
ってか、ここはどこ?わたしはミチル!ってそうじゃない!どうしよ?ミチル、ここから家まで無事に帰れるかなぁ?」
方向も考えずに爆走していたミチルは、気付けば完全なる「迷子」になっていた。これが長年住んでいる地元であれば、電信柱に書いてある地名やら、風変わりな建物をランドマークにして家路につく事は可能だろう。しかし、ミチルは“地元民二年生”だ。
日頃から自宅と学校、自宅と“業スムーパー”の往復しかして来ていない。
更に今が昼間なら、遠くの空に目立つ建物を発見出来たかもしれないが、今はもう真夜中に片足を突っ込んだ深夜。いくら見回してみても、空に輝く星と月以外に光っている灯りはない。
そう、この周辺の住居に灯りは点っていない。いくら閑静な住宅街とは言っても、大抵一軒くらいは煌煌とした明かりが点っていてもおかしくはない。しかしここにはそれが一切ない。
不思議な感覚と底知れぬ孤独に囚われながらも、ミチルは自分のスマホを取り出し、“gougle”マップを手慣れた感じで開いていく。そして、ちゃちゃっと自宅までの経路を検索。
とぼとぼと家路を急いだのである。
「やっぱり迷子になったら“gougle”先生がイっチバン!」
斯くして日付が変わる頃、彼女はようやく「普通」の拠点である自宅へと帰り着いたのだった――
―― To the Next Cut ――




