Ep10 Chapter“1” Scene“2” Cut“2” Take“2” 鬼ごっこは唐突に
「はぁ……仕方無いよ……ね。
えいッ!」
ミチルが意を決して虚空から引き抜く。それは一振りの刀。見事な反りと美しい刃紋。しかし刃は施されていない「打撃武器」としての刀。
それをミチルは、眼下に陣取る志に向かってポイっと投げたのである。
一方のミコロは、頭上からの奇襲に気付く由もない。軍師・文若は空を斬る気配を察したが、「余計な手出し無用」と命じられた手前、無言で目を逸らした。
結果――
――ゴッんッ
「うきゅぅ。お星さまがグルグル回ってますぅ〜」
ばたッ――
志はその強襲を脳天で受け、その場で卒倒するハメになった。
「よしッ!今のうちッ!」
――しゅたたッ
斯くしてミチルの一難は去った。しかし、お昼は半分以上残り、かと言って授業の合間に“遅弁”する事も叶わず、そのまま学校が終わればバイトは目前だ。
「腹が減っては戦が出来ぬ」と昔の人は言ったらしいが、ミチルから言わせれば「腹が減ってもバイトはやれる。じゃなきゃ生活がままならない」……だ。
そんなバイト中は、お腹に「鳴るな〜鳴るな〜」と必死に言い聞かせ、早く時が過ぎるのを願い、いつも以上に必死に働いた。
必死になるほど、「空腹さ」を忘れられると思ったに違いない。
しかしその実、「鳴るな」と願うほど客の前で虫が鳴くのはお約束。だからソレを聞かれれば「食べ盛り小学生」と揶揄され、余計なイジりに目が釣り上がる……と言った光景もまたお約束だ。
―― To the Next Cut ――
「それにしても、昼間のアレって結局なんだったんだろー?お昼休み過ぎたら誰も寄って来なかったんだよねー」
――ざッ
ミチルはバイトが終われば着替えて家に帰る。それはいつもの事。その帰宅時間はいつも通り五分。だが最近その“五分”間に色々な事が起こる気がしてやまなかった。
何故なら、その眼前に立ちはだかる影が現れたからだ。
「どなた様ですか?ミチルは早く家に帰りたいので、どいてもらえますか?」
「どけと言われて『はい』と言うなら、最初から道を塞いだりはしないわよ」
それは“業スムーパー”からの帰り道。その女性はミチルの前に立ち塞がり、両腕を広げて“通せんぼ”するような格好でミチルの帰宅を阻害していた。
ちなみに、周囲には誰一人いない。
「それはそうですが……ミチルに何か用ですか?それとも新種の変質者?それなら大きな声を出しますけ――」
――ギンッ
「くっはッ……何こ、れ?息が……」
彼女は少なくともミチルの知人ではない。更に言えばその姿はただのOLにも見える。因ってミチルは襲われる理由が分からない……が、少なくともこの女性の怪しげに輝く瞳が普通ではない告げていた。
「どう?苦しい?これなら大きな声は出せないでしょ?」
「ミ、チルに、な……んの、用があってこ、んなコト……を?」
ミチルの呼吸は荒い。そして声は掠れて思ったように吐き出せない。まるで真綿で首を絞められたようだった。
「ちょっと、今日の昼間の事を聞かせて貰えるかしら?」
「ひ、るま?なん……の事か、さっぱ……り分からない、んです、け、ど?」
襲われる理由は分かった。だが、腑に落ちない。あの時、力を使ったのは一瞬だけ。その場には当事者であるミチルともう一人しかいなかった。
だから、こんなOL風の女性が学校の屋上で起きた出来事を知ってるとは思えない。
「それじゃ、本題に入るわよ?」
「そのま……えに、息が苦し……いのを、なんと……かして、くださ……い」
ミチルはOL風の女性が何を考えているのか分からない。ここは路上であって、誰かに見られれば大騒ぎになる。しかし、そんな救世主は今日に限って誰一人通ってくれない。
「大声出さないって約束してくれるなら、解いてあげるけど?」
「は……い。しま、す」
「そう?いいコね」
ミチルの解答を受けたOL風の女性の瞳は、その輝きを元の姿に戻していった――
「誰かーーーーーッ!来て下さーーーいッ!変質者ですーーーーーッ!いや、火事だあぁぁぁぁ!それよりも、ケーサツ呼んでえぇぇ!いやいやむしろ、救急車を呼んで下さあぁぁぁぁぁい!」
「ちょッ?! その歳で嘘は良くないわよッ!もうッ!手荒な事はしたくなかったけど、本当に仕方無いコね」
自由になったミチルは必死に叫んだ。
……が、このよく分からない叫びは、巣籠もりしてる近隣住民の興味を引く事には成功したようだ。
拠って周囲の住居からガラガラと窓を開く音が幾重にも重なって響き渡る。
その一方で年齢の事を言われたミチルの表情が、引き攣っていたのは言うまでもない。
「逃げなきゃ」
「こらッ、待ちなさいッ!」
女性の反論を背にミチルは全力で駆け出した。しかし“家バレ”は駄目だ。そして“業スムーパー”を巻き込むのはもっと駄目。それは普通の女子高生にあるまじき姿。
斯くして夜の街を舞台に、普通の女子高生と謎のOLによる、「全力ダッシュリアル鬼ごっこ」の幕が切って落とされた――
―― To the Next Scene ――




