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ミツルとミチルとミクニとミコロ 〜 Romance Trium Regnorum et nobilis gladius 〜  作者: 硝酸塩硫化水素


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Ep9 Chapter“1” Scene“2” Cut“2” Take“1” チャイムは唐突に

「うふふ、ミチル先輩はどこかしら?」


「小官が手伝いましょうか?」


 獲物を狙う肉食獣のような瞳で屋上へ乗り込んできた(ミコロ)。その傍らで、朝から「独り芝居」の相手を務める軍師・文若の表情には、今に至るまで「駆虎呑狼(離間第二計)」を維持してきた結果、隠しきれない疲労の色が滲んでいた。


文若(ぶんじゃく)は黙っていて下さい。私が一人でミチル先輩を見付け出さないと意味がありません。余計な手出し口出しは結構です!」


 屋上にやって来た(ミコロ)は、やはり独り言劇場の真っ只中にいる。そしてその様子を、息を殺し気配を潜めてミチルは窺っていた。

 しかしミチルの場所まで(ミコロ)の独り言は届いていない。


 屋上で吹きすさぶ風が、(ミコロ)の声を盛大に吹き流してくれている。その反面、ミチルの位置からは、ミコロが虚空に向かって口を動かし、一人で憤慨している異様な光景だけが映っていた。


「(誰かと話してる?でも、側には誰もいない気がするんだよなぁ)」


「可怪しいですね……。てっきりここら辺にいるものと思ったのですが」


 (ミコロ)は屋上をウロチョロ歩き回り、ベンチの後ろ、花壇の裏、はたまたエアコンの室外機の背面まで探していた。見ようによっては落とした“小物”を探しているようにも見えるが、本人は大真面目にミチルを探している。

 もしもミチルがその事を知ったら激怒する事は間違い無しだろう。


「やはり私も手伝――」

「文若!大丈夫と言いましたよね?これ以上邪魔をするなら、今すぐに消えてもらいますよ?」


 (ミコロ)の八つ当たりに、文若は深いため息を飲み込んだ。「いっそ消してくれ」と言いたげな顔をしながらも、軍師としての“矜持”か、あるいは(ミコロ)に対する“呆れ”か……はたまたその両方を携えながらも、そんなコトを言うハズもなかった。


「(あの女性(ひと)何かを探してる?落とし物かな?それよりもあの女性(ひと)誰なんだろ?同じ学年で見た事ないからそれは確かなんだけど、そうしたら三年生(上級生)かな?それならそれで、見付かったらヤバそう……)」


 給水塔の上にミチルがいる事を知らない(ミコロ)の行動は、上から見ているミチルに筒抜けだった。そして、現状としてミチル自身がそこから動く事が出来ないのもまた事実だ。

 今、(ミコロ)は少し離れた場所を探しているが、ミチルが梯子を降りきるまで振り返らないとは考えにくい。

 この学校の治安はそこまで悪くはないが、お昼休みに本来なら閉まっている屋上に、ワザワザ来る辺り、「普通の高校生」とは思えない。


 それにしても自分の事は()()()()、ミチルはにっちもさっちもいかない状況に追い込まれていた。

 このまま諦めて(ミコロ)が屋上から出て行ってくれなければ、貴重な昼休み(一人の時間)を丸々潰してしまう事になる。更には、食べ終わっていないお昼ご飯も無駄になってしまう。

 その事を考えると急に不安になって来たミチルだったと言えるだろう。



「ここに来たのは確実なのに、なんでいないんでしょう?ここは屋上で、出入り口は一か所。隠れられそうな場所は全て探しました。それなのにいないなんて、ミチル先輩は一体どこへ?

 もう仕方がありません。こうなったら根比べです!」


 ミチルの事を探せど探せど見付けられない(ミコロ)。探している場所が悪い事に気付かなかった結果、なんと屋上と校舎を唯一繋ぐ、ドアの付近に腰を落とす事にしたのだった。

 その光景を見たミチルには、もはや絶望しか無かったと言うのは過言ではない。


 ちなみにこの時、(ミコロ)は文若に対して一度だけ“睨み”を入れていた。それの意味は「文若の誘導が間違っていたのではないか?」という八つ当たりに近いモノだが、その睨みを文若は見て見ぬフリで誤魔化し、両手の人差し指を使って自身の口元に“✕”印を付けていた。



「(参ったなぁ……あの感じだと、探し物じゃなくて狙いはやっぱりミチルって事になるのかなぁ?そうなるとやっぱり一昨日の夜の件しかないよねぇ……ヤだなぁ……)」


 ミチルは(ミコロ)がドア付近に陣取った事で、多少の疑念は残るものの、狙いが自分だと理解するに至った。彼女と自分との接点は、一昨日の夜以外には無く、あの時見逃した自分を執拗に追い掛けて来たと思うと、急に腹立たしい感情が沸き上がってきていた。


 だがこの時点で既に(ミコロ)は、()()()()()()とんでもない間違いを犯していた事になる。

 何故ならば、あれだけ作戦を練った“上屋抽梯(じょうおくちゅうてい)”が出来る場所にミチルがいるにも拘わらずその事に気付いていない。これはいま正に、孔明が去り際に話した“失街亭”に陥りそうな状況だと言える。

 更にはその事に気付いている“文若”を(ないがし)ろにもしているので、救いようがない。


 ――リーンゴーン リーンゴーン――


 無情にも昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いていく。

 ミチルは放課後にバイトを控えているからこそ、無駄に体力を使いたくもない。そして平穏な「普通の女子高生」を死守したいミチルにとって、この「逃げ場のない監禁状態」は、日常を脅かす最大の危機だったと言えるだろう――



 ―― To the Next Take ――

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