56 迷いの中で (1)
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薄茶の茶室でも花が気になった。
なんの花?百合っぽく見えるけど、小さい。赤紫が一輪と白が一輪、葉っぱと一緒に飾っている。
うずうずしてるのがバレたのか、組長先生が、
「花は?」と若頭に聞いた。
「カタクリの花と蓮の葉です。胡蝶さんが生けてくださっています」
「カタクリの花・・・」
「見たことは?」
「無いです。初めて見ました・・。かわいい花なんですね。特に白が・・素敵です」
ため息がもれる。
「カタクリの花はこれが最後ですからぜひ見て頂きたかったんですのよ」
胡蝶さんは少し前屈みになりわたしに話しかけてくれた。
「自生のカタクリは保護対象となってますが、うちの山の奥のほうに群生地があります。気温が低いせいなのか、不思議なことに今の時期でもたまに咲いてるのを見かけます。盛りは春なので、来年の春にご案内しましょう」
松田さんもわたしを見て言ったのだが、来年・・。
これは来年の約束になる。
わたしは返事ができず、笑顔でごまかすことにした。
そして、
「京司郎、剣の相手をしてくれ」
薄茶が終わる頃、松田さんが言った。
若頭、忙しいな。
わたし達は茶屋を出て道場へと向かうこととなった。
「剣って、剣道ですか?」
「いや、違う。真剣を使う。日本刀だ。お前の好きな刀剣乱舞だな」
「あら、乙女ゲームですわね」
「え?・・え?だ、誰に・・」
なぜ知ってる、組長先生。
「糸川の娘っこがよ。みーちゃん先輩は刀剣乱舞が好きなんだって言ってたぞ」
「━━━━」りんちゃんめ!密かに組長先生と通じてわたしの情報を渡していたのか!
「ゲームはやらないですけど、キャラクターが好きなんです」モゴモゴごまかしたい。
「誰が一番好きなんだ?」
「村雲功です・・」あの情けないところがかわいい。いつも自虐的でお腹痛くなるのが。かわいい、守ってあげたい。でもいざとなったら強いというギャップ萌え。五月雨功になついてるのもかわいい。
悪とは何か、善とは何かを自問自答してるような・・・彼はいつも迷いの中にいる。
道場へ行く道すがらの、松田家の大きな池を見てわたしは、
「舟遊びが出来そうですね」と、つい言ってしまった。
失言だったと後悔した。
「なんだ、舟遊びしてえのか?」
組長先生が食いついてしまったのだ。
ヤバいと思ったが、遅かった。
「あ、いえ、あの」
「そんならよ、うちの池で久しぶりに出すか」
「え?舟もあるんですか?!」
「おう、あるぜ。うちの池の方がでかいからな」
組長先生、張り合ってるのか?松田さんの池と。
胡蝶さんがクスクス笑っている。
「昔はよく出したもんだが、最近はとんと舟遊びはご無沙汰だ。舟も整備だけじゃかわいそうだしな。よし!今年の月見は舟からだな。胡蝶、松田の都合も空けとけや。・・・舟、のせてやるからな」
組長先生はわたしの肩をポンポンとたたいた。
「いえ、あの、組長先生、」
待って待って。わたしの都合は?
「今年の月見は楽しみだぜ、なあ?はっはっはっ」
組長先生は豪快に笑った。
「━━━━」
なぜだ。
どんどん沼にはまってしまう。
組長先生から離れるという鋼鉄の決意を持ってたはずだが、鋼鉄の決意がいつの間にか沼に引きずりこまれている。名付けるなら組長先生沼。
鋼鉄だから腐ることはないと思うが、果たして浮上できるかできないか。いやいや浮上させなくては。
しかし鋼鉄だから浮上するにもきっと重い。
鋼鉄ではなくもっと軽い素材にすればよかったのかもしれない。
「どうした?」
「あ、いえ、なんだか山道歩いてたら道標が作為的に違う方向にされているようなそんな気分なんです・・」
「なんだそりゃ」
と組長先生は言ったが、胡蝶さんは
「作為的ではなく、神様のお導きかもしれなくてよ」
と、意味深な発言をし、胡蝶さんは道場の扉を開いた。
松田さんと、若頭がいた。
二人とも袴姿だった。




