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57 迷いの中で (2)

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ひゅんっ、と、空気を斬り裂く音がした。


松田さんと若頭の居合い演武。


「型通りの動きをする。松田のあとに京司郎が同じ型を演じる。そのあとに二人が対戦する形を演じる。相手の体に当たらないようにするが、一定の早さがあるから気を抜くと斬られる。真剣勝負だ」


真剣勝負。



松田さんの日本刀が空を斬る。

若頭の日本刀が空を斬る。



緊張感でさえ心地よい、厳かな世界。




「最後に抜刀の披露だ」



松田さんと若頭は改めて向かい合わせる。


松田さんの手が日本刀の(つか)にかかった。


柄にかかったのは見えた。

なのに、次の瞬間には既に日本刀は鞘から抜かれ、若頭の体を今にも斬ろうとしていた。


わたしは呆然とした。


いつの間に?




「京司郎、何を迷った」



松田さんの声が道場内に響いた。



若頭は何も答えずそのまま座り、

「ありがとうございました」

とお辞儀をして言った。


「・・稽古は毎日しなさい、京司郎。どんなに仕事が忙しくてもです」


胡蝶さんが言った。


若頭は「はい」と答えた。



松田さんと若頭は最後にわたし達に礼をし、着替える為に道場をあとにした。



「いつものあいつならかわしてるんだがなぁ」

組長先生が腕組みをして言った。

「でも凄かったです。厳かな世界でした。・・・若頭はフランスから帰ってきたばかりだし、疲れていたんじゃないですか?」

と言ったら組長先生がわたしをじっと見た。

別に若頭をかばったわけではないが、フランスからほぼとんぼ返り的な帰国なら・・と思っただけで。


組長先生は手を伸ばし、「お前はいい子だなあ」としみじみ感を溢れさせ、わたしの頭をなでくりまわした。


「ですから、わたしは子供じゃないと何度言ったら」

「さあ、庭を見せてもらえ。俺は松田と囲碁だ。この前の借りを返さにゃならん」

「え?お庭?見せてもらえるんですか?!」

組長先生はエサをまくのがうまい。



着替えを終えた若頭は仕事があると、先に松田家をあとにした。

わたし達の帰りは、黒岩さんが迎えに来てくれるという。


ホントに忙しいなぁ・・若頭。


「さあ、松田家のイングリッシュガーデンをご案内するわね」

胡蝶さんが手招きをし、わたしは楓さんと一緒に前庭へと向かった。


いろんなバラが咲き誇る、見事な松田家のお庭。

「イングリッシュガーデンのほとんどはうちの橘が一人でつくったのよ」

「素晴らしいです!この草花の組み合わせや彩り!」

感激の雄叫びをあげたいくらいだ。

「こーんなに喜んでもらえるなんて、良かったわねー?橘?」

楓さんがからかい気味に、胡蝶さんの後ろのお供の男性を振り向いた。

「もしかして・・」

「うちの橘は護衛だけじゃなく庭造りも得意なのよ。ほほほほほ」

胡蝶さんが軽やかに笑ってるのと対象に、橘さんはバツが悪そうに横を向いて咳払いをした。

一見シティハンターの海坊主みたいな人なのに、こんな細やかな彩り豊かな庭を造るなんて、

「ど・・・どうやったらこんな彩り豊かなお庭を造れるんですか?!」

興奮してとうとう叫んでしまった。


その頃、組長先生と松田さんは囲碁の勝負をしていた。勝敗は今のところ松田さんの勝ちが多いとのことだった。今日負けると組長先生は三連敗らしい。


「楽しげな声がここまで聞こえてきますね」

「・・うちもまたバラを植えるか。・・・分けてくれるか?」

「もちろんかまいませんが・・。いいんですか?」

「・・あんときゃ辛すぎて・・あいつの育てていたバラは全部この家に引き取ってもらったが・・もう、ずいぶん時間もたった・・・」

「・・そうですね」

「あ、松田!お前・・!ちょっと待て!」



橘さんが照れながら庭の花の配置の説明をしてくれていた。

そんなところに、



「みふゆ!みふゆ!ちょっと来い!」

と、組長先生の呼び声。



「え?わたし?」


「あら、あの様子だとうちの松田に負けてるわね」

「全く!会長は負けてるとね、誰かを呼ぶのよ。時間稼ぎにね」

胡蝶さんと楓さんがあきれたように目を細めた。


「きっと囲碁の説明が始まるから適当にかわしてらっしゃい」

胡蝶さんがアドバイスをくれた。

組長先生のもとに行くとやはり囲碁の説明が始まり、松田さんは苦笑いをしていた。





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