番外編 プレゼント 4
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奈良━━━市部組事務所ビル。
「ねぇパパ、ほんとに京司朗さんと一晩過ごさせてくれるの?」
「ああ。なに、どんなに屈強な人間でも眠り薬には敵わないさ。お前は眠った京司朗君を好きにすればいい」
「やあだ、パパってば!」
早苗は照れ笑いで父親の市部太志を軽く睨んだ。
留学前に何度か誘ったが、京司朗が受け入れてくれることは一度もなく、早苗は傷ついた。
大概の男はこの美貌と肉体に下心を持つのに、わずかな一瞥さえくれなかったのだ。
女に興味がないのではないかと思ったが、惣領家の娘と結婚したのだから、少なくとも同性がいいというわけではないだろう。
留学先のスペインの大学で京司朗の婚約を聞き、早苗は自分が京司朗の眼中になかったただけと真に理解して憤慨した。
惣領貴之の娘というだけで、仙道京司朗を手にいれた女が許せない。
だから結婚したと知り、京司朗を奪うことにしたのだ。どんな手を使ってでも。
「ねぇ、今夜の会食、着物で行こうかな。奥さんになったひとって着物をよく着てると聞いたわ」
「お前、着物は持ってないだろう?」
「買ってよ。京司朗さんが来るまでまだ時間あるし。いいでしょ?」
「しょうのない娘だな」
市部が言いながらもポケットから携帯電話を取りだし、部下に車を準備するよう伝えている時だった。
「社長!社長!!」
ドアの外で叫ぶ男の声に「なんだ、騒がしい」と携帯電話を切って立ち上がった。
「社長!大変です!」
「うるさいぞ!」
市部が怒ると、入ってきた男が慌てふためいて、
「そ、そ、惣領貴之会長が、お、お見えになって・・!」
と言った。
市部が部下の男を凝視した。正確にはその後ろを━━━━━━
「よお、久しぶりじゃねぇか市部」
貴之が市部の部下を押しのけ社長室に入ってきた。
「急な仕事?」
「はい。すぐ戻ると言っていたので、お昼には帰ってくると思いますよ」
使用人頭の本橋がお茶とお菓子を持ってきたので、みふゆと山斗はゲームを一時中断とした。
みふゆはお茶に貴之も呼ぼうとしたのだが、本橋から仕事で出かけたと聞かされた。
出かけるときは必ずみふゆに声をかけてくれるのに、よほど急ぎの仕事だったのか。クッキーをひとつ口に放りこむと、みふゆはひとつの事実に気がついた。
父・貴之も夫・京司朗も黒岩正吾も楓もいない。つまり、もしもお客様が来たら当主代理として対応するのは自分ではないのか━━━
「みふゆさん、どうしたの?」
クッキーを口に放りこんだ姿勢のままのみふゆに、山斗が首を傾げている。
「山斗くん・・、もしも今お客様が来たら・・・お父さんや京さんの代わりに対応するのはわたしでは・・・?」
「・・・」
なるほど、と山斗は理解した。
みふゆは緊張しているのだ。確かに貴之と京司朗のほかに山斗の両親黒岩正吾と楓もいない。こんな状況珍しい。
「大丈夫だよ。出かけたってことは来客の予定は無いはずだから」
「そう・・なの・・・?」
疑心暗鬼なみふゆ。
対して、悠然とかまえる山斗。
「会長はすぐに戻ってくるって本橋も言ってたし、仮に誰か来ても海斗がいるから大丈夫」
面倒ごとは海斗に任せてしまえと常日頃考えている山斗だ。
「海斗君が・・」
「俺がなんだって?」
海斗が現れた。
「あ、クッキーじゃん。本橋ー!俺達にもコーヒーとクッキーちょーだい!!」
永斗も現れた。
「で、なんの話?」
海斗がみふゆの向かい側のソファにすわった。
「いま客が来たら誰が対応するのかなって話」
山斗がみふゆの隣で海斗を指さししてジェスチャーを送っている。
謎のジェスチャーに海斗が「え?」と言うと、
「そりゃみふゆさんでしょ、会長の娘で京にぃの嫁なんだしサ」
海斗の隣に座った永斗が平然と軽口を叩き、山斗は頭を抱えた。みふゆの表情がこわばった。
「そ、そうよね、やっぱり、わたしの方が大人だし」
気づいた海斗が慌てて
「俺が出るよ!俺なら大抵の人知ってるし、人間関係把握してるし父さんからもいろいろ聞いてるし!大丈夫だよ!俺に任せて!」
と永斗の口を塞ぎながら宣言した。
海斗の力強い宣言にみふゆはほっとした。
「まあ予定外の来客なんてほぼないはずだからさ」
海斗が笑って言うと、
「そうだよ」と山斗も笑った。
「でもこーゆーときに限って来たりしてさー」
永斗が脳天気に言うと、
「永斗!テメーは少し黙ってろっっ!」
と海斗が永斗にヘッドロックをかけた。
「イテテテテッ」
「みふゆさん、バカはほっといてゲームの続きやろう」
山斗がクッキーの皿を持って立ち上がると、みふゆはクスクスと笑いながら山斗のあとに続こうとした━━━━が、
「あのー、北山組の組長がお見えになったんですが」門番の御園尾がリビングに来客を告げに訪れた。
「え!?」とみふゆが驚き、
永斗にヘッドロックをかけてる海斗と、クッキーの皿を持った山斗が、
「なんでわざわざ今来るんだよ!!」
と、叫んだ。
「そ、惣領会長、あの、いったいどういうご用件で・・」
「“どういうご用件”だと?」
貴之は焦る市部に近づき胸ぐらを掴むと、市部を机に叩きつけた。顔面に受けた衝撃に、市部は唸り、そばにいた早苗が恐怖で声も出ず後ずさった。
「そ、惣領会長・・・、私は・・な、なにも」
「とぼけるんじゃねえ。俺が気づかねえままでいると本気で思ってたのか」
「ほ、本当です!私は、私は何も・・!」
「俺の娘夫婦にちょっかいかけるなんざぁ身の程知らずにも程がある」
貴之の迫力に市部は完全にのまれており、言葉は何一つ出てこない。射殺されそうな眼光だ。
貴之は懐の短刀を抜くと、机に突き刺した。
「おとしまえつけてもらうぜ」
貴之の声が冷酷に響いた。




