遥か東より来た騎士9
ガレス卿からランス指南を受けた翌日、今度はヨシタカ卿がメローラたち従騎士に稽古を付けていた。とはいえ、ヨシタカ卿が得意とする刀はブリテンでは手に入らない。そのため、ヨシタカ卿も両刃の直剣に持ち替えている。彼を知り己を知れば百戦殆うからずの言葉通り、ヨシタカ卿は刀以外の武器についてもランス同様に学び、人並み以上の腕を身に付けていた。
「剣を手の内で自由に動かせるよう、握りは柔らかく、小指だけを締めるのだ。攻める時は敵の刃を敵の中心から外すよう、体を捌いて回り込め。受ける時に反るようではもう死に体だ、そこまで追い詰められる前に間合いを切れ」
そう中庭で教えていると、小姓が息を切らせて駆け寄って来た。
「ヨシタカ卿、王が急ぎお召しです、円卓の間へお急ぎください!」
何事か起こったらしいなと稽古を切り上げて足早に向かうと、騎士たちが続々と集まっているところであった。客将であるヨシタカ卿の席は円卓にはないので、少し離れて用意された別卓の席に座る。おおよそ50人ほどの騎士が席に着くと、人の出入りもまばらになった。間もなく王が国務卿のケイ卿と執事のベディヴィア卿を伴って入室すると、騎士たちが一斉に立ち上がる。王が座に着くと、騎士たちもまた腰を下ろした。
「諸卿、先ほどトマスグリーンの村に巨人が出たとの知らせが入った」
巨人が……とのざわめきが広がる。
「村の家々を壊し、家畜を食い荒らしているという。私には領民とその財産を守る義務がある。誰ぞこの巨人を平らげる冒険に挑む者はあるか?」
すると、騎士たちがこぞって身を乗り出した。王よ、どうか私に。いやどうかそれがしにお命じくだされ。無論、ヨシタカ卿も立ち上がっている。名乗りを上げる騎士たちの声にかき消され、辺りは話もできぬほどであった。この様子を見た王が手を上げると、喧騒はぴたりと止んだ。
「ケイ卿、どう思うか」
「は。つい先頃、武者修行のために我が国を訪れたヨシタカ卿が打ってつけかと」
「ふうむ。だが卿は冒険を終えたばかりではないのか?」
一同の目がヨシタカ卿に集まる。
「既に気力は十分、満ち満ちてございます!」
ヨシタカ卿が大声で返すと、王は頷いた。
「わかった。ではヨシタカ卿に任せよう」
王の言葉から一拍置いて、声が上がった。
「畏れながら申し上げます。王がモンサンミッシェルの巨人を討伐されたのは皆が知るところ。ですが、その際にもケイ卿とベディヴィア卿が同道されていたはずです。であれば、ヨシタカ卿にも同行者が許されてよろしいのではないでしょうか」
「まことその通りだ、ガレス卿」
「その役を私にお許しいただければと存じます」
「許そう。となるともう1人だな」
諸卿に先んじて、1人の騎士が名乗りを上げる。
「どうか私にお命じください。ブリテン騎士の力をヨシタカ卿にお見せしましょう」
「ラムロック卿か。確かに卿以上の騎士はそうはおるまい」
宮廷道化師のダゴネット卿が叫ぶ。
「ブリテン最高の騎士の力を目に焼き付けるがいい!」
「決まりですな」
ケイ卿の言葉に王が頷いた。
「ではトマスグリーンの巨人退治にはヨシタカ卿、ラムロック卿、ガレス卿が赴くものとする。卿らに神のご加護があらんことを」
「しからば支度がありますゆえこれにて御免!」
退室するヨシタカ卿に、ラムロック卿とガレス卿が続く。その背に、武運を、神のご加護を、と騎士たちが声をかけた。




