遥か東より来た騎士8
体にこびり付いた土と血と汗を水場で洗い流しつつ、ヨシタカ卿は思った。これほど体に打ち身を作ったのは、いつぶりか思い出せないくらいだな。結局、ヨシタカ卿はガレス卿を落馬させることはできなかった。だが最後の試技では、両者ともに落馬せず、互いにランスを折っている。
「もう何度か経験を積めば、並みの騎士など及ばぬほどの戦果を残せるでしょう」
そう微笑んで、ガレス卿は先に城へと戻って行った。一度も落馬していないのだから、さして汚れてもおらず、軽く水浴びするだけでよいというわけである。その姿が見えなくなってから、ローランがやや興奮気味に言った。さすがに女子に背を流させるのは気が引けるので、男のローランにやらせている。
「すごいですね、ヨシタカ卿」
「うむ、全く以って敵わぬ。さすがブリテンに名を轟かす騎士なだけある」
「違います、ヨシタカ卿のことですよ」
「何がだ?」
「ガレス卿と五分に渡り合える騎士なんて、ブリテン中を探してもそうはいないんですよ!」
「ふうむ、とても五分とは思えぬが」
ガレス卿を一度も突き落とすことができなかったので、五分と言われてもヨシタカ卿には実感がない。
「最後の試合を見ればわかります、相手がガレス卿だから勝てなかっただけで、ほかの騎士が相手なら勝ってますよ!」
「そういうものか。であれば、ガレス卿の指南の賜物だな」
突くべきポイント、タイミング。ガレス卿は一戦ごとに、惜しむことなく丁寧に教えてくれた。
「口で言ってわかるものなら誰だってすぐにランスをマスターできますよ」
「そういうものか」
「そうですよ! 大会が楽しみです!」
何やら楽し気なローランを見て、ヨシタカ卿はふっと笑った。
「私がお前の主君に足る男であればよいのだが」
一瞬、ローランが言葉を詰まらせる。
「確かに、私がヨシタカ卿の従騎士となったのは、メローラ様をお守りするためです。ですが今は、ヨシタカ卿にお仕えできることを幸運に思っています」
「そうか。ではお前の期待を裏切らぬようにせねばな」
笑って水場から出て、綿布で体を拭う。
「私だけでなく、メローラ様も期待されておいでです」
「ますます責任重大だな」
腰布を巻くと、傷に擦り込む膏油を持ったメローラとエレンが寄って来た。手当てをされながら、ヨシタカ卿は考える。一体どうすればメローラの望む結果になるのか?
「よし、決めたぞ」
手当てと着替えを終え、刀を腰に釣るしたヨシタカ卿が言った。
「何をです?」
メローラが訊ねる。
「私は名を上げ、ガレス卿以上の騎士となる」
「そうですか」
微笑むメローラ。
「ブリテン有数の騎士となった私がそなたを騎士に叙任すれば、何人であれ、そなたの意思を尊重せざるを得まい」
「そうですね」
メローラは嬉しそう。
「剣にかけて誓ってくださいますか?」
「ああ、誓おう。私はブリテン最高の騎士となる!」
鞘から抜いた刀を掲げてヨシタカ卿は高らかに宣言した。それがどれほど難しいことなのか、理解していないまま。




