遥か東より来た騎士6
オークニー邸での会食の翌朝、ガレス卿がメローラを伴ってやって来たとの知らせを受けてヨシタカ卿が表に出ると、そこには確かにオークニーの兄妹がいた。だがそれだけでなく、軍馬やランス、天幕を始め、予想以上の品々まで届いており、衆目を集めていた。
「おはようございます、ヨシタカ卿」
「おはようございまする、ガレス卿。これは一体……」
ヨシタカ卿がメローラに目をやると、恥ずかしさで縮こまっている様子。それでガレス卿に説明を求めると、ガレス卿は爽やかに笑った。
「いえ、オークニー王家の娘が世話になるわけですから、それ相応の品が必要かと思いまして。普通であれば身の回りの品だけ用意するものなのですが、なにぶん、ヨシタカ卿もほとんど身一つで旅されて来たようなものですから。なに、あれでガウェインもメローラには甘いということですよ」
なるほど、ブリテンは諸王国連合なわけで、メローラはイングランド王の姪であると同時に、オークニー王の妹でもあるというわけだ。本来であれば自分のような下級武士がお目にかかることなど適わぬ身分なのかもしれぬ、とヨシタカ卿は考える。
「しかしこれでは……」
武者修行というより王族の遊行ではないか。
「ご懸念の点はわかります、私どももこのような品を伴って冒険したことなどありませんからね。必要なものだけお持ちくだされば結構です。ただ、私も卿の冒険にお供をすることだけはお許しいただきたい」
「御身もですか?」
「ええ、ヨシタカ卿はブリテンへいらしてから日も浅く、土地鑑もお持ちでないでしょう」
「それは私が……」
メローラは口を開きかけたが、ガレス卿の涼しげながらも鋭い視線に射抜かれると押し黙った。
「それに、昨夜のお話から察するに、恐らく卿はランスの使い方もご存じないのでは? それでは馬上槍試合にも参加できないでしょう。そこで僭越ながら私が、ランスの扱いと馬上槍試合の作法を卿とメローラにお教えしようと思いまして」
「馬上槍試合でござるか」
「いかにも。ブリテンで力試しをするならば、馬上槍試合を避けて通ることはできませんよ」
「わかり申した。そういうことであれば、よろしくお願いいたします」
「ご快諾いただきありがとう存じます。さて、いずれにせよ冒険に出るのであれば、ランスの使い方を修得してからになさった方がよろしいでしょう。でなければ力を試す機会も半減するというものです。今日持参した品々はオークニー邸に保管しておきますので、冒険に出る際にはお声がけください」
「何から何まで相すみませぬ。ご心配かけついでで申し訳ないのですが、もしよろしければ、これからでもそのランスについてご指南いただきたいのですがいかがでしょうか」
「もちろんです。さあメローラ、お前も荷物を置いたら馬場へ来なさい」
「は、はい」
ガレス卿に指示され、メローラは城の裏口へと走って行く。
「では少しお待ちください、これらを片付けてしまいますので」
ガレス卿が、このまま城に残す物と持ち帰る物を使用人に伝え始める。それをヨシタカ卿が何ともなく眺めていると、少年と少女が駆け寄ってきた。
「お初にお目にかかります、ヨシタカ卿」
声をかけて来た少年に、ヨシタカ卿が答えた。
「そなたたちは?」
「はい。私はローラン、こちらはエレンと申しまして、メローラ様の乳兄妹です。よろしければ、私どももヨシタカ卿の従騎士にしていただけないでしょうか」
なるほど、これもガウェイン卿の差配か。メローラ1人では従者として心許ないし、メローラと同じ年頃の少女を同行させた方が、何かと都合がよいように思える。
「わかった、よろしく頼む」
「ありがとうございます、よろしくお願いいたします」
礼を述べるローランに続いて、エレンが口を開いた。
「では私どもも、城に荷物を置いて参ります」
「ああ、行きなさい」
小走りに去って行くローランたちの背中を眺めながら、ヨシタカ卿は考える。予想だにせぬことが続いたが、ともあれこれで冒険の支度は十分過ぎるほどに整った。あとはランスの使い方を学ぶだけだ。新たな武器のことを考えると、心が沸き立つのを抑えられなかった。




