遥か東より来た騎士5
メローラの件でひと悶着あった後、そのままヨシタカ卿はガウェイン卿から夕食に招かれた。妹を預ける異邦の騎士について詳しく知りたいのかもしれぬと思い、ヨシタカ卿は招待を受けることにした。オークニー一族はアーサー王の宮廷でも武門の誉れ高く、特に長兄のガウェイン卿、四男のガレス卿は円卓の中でも秀でた騎士であるとの話も耳にしていたからである。ガウェイン卿の母であるモルゴース妃はオークニーに留まっており、次兄のアグラヴェイン卿は三男のガーエリス卿捜索に出たまま戻っていなかったが、それ以外の一族は揃っていた。
夕食の席では、メローラは少女らしいドレスを着飾っていて、大変にかわいらしかった。しかし従騎士となって冒険の供をするとなれば、当分はこうしてドレスを着る機会はない。ヨシタカ卿にはそれが少々惜しく感じられた。
会食中、様々な話が交わされた。ヨシタカ卿とガーエリス卿の出会いが改めて披露されたのはもちろん、ガウェイン卿とその妻ラグニルドの馴れ初め、ガレス卿の騎士叙任、ガウェイン卿たちの従弟に当たるユ―ウェイン卿の冒険について。また、ヨシタカ卿は、10年ほど前に、船で島を渡る際に嵐に巻き込まれて漂流し、大陸へ辿り着いたことや、そのまま故国とは逆に西へと進み、セリカンや天竺、エルサレム、サラセン、ローマ、ガリアなど、各地を旅してきたことを明らかにした。ヨシタカ卿とオークニー一族の話は互いの経験を照らし合わせてもいずれにも嘘はないように思われ、すっかり打ち解けることができた。
デザートの果物も食べ終わると、ヨシタカ卿は庭を案内したいとメローラに誘われた。ガウェイン卿に目を向けると頷かれたので、ヨシタカ卿はメローラに付いていくことにした。料理の感想などたわいもない話をしながら、ガウェイン卿たちに声が届かぬ距離まで来ると、メローラが本題を切り出して来た。
「申し訳ございません、ヨシタカ卿。ご迷惑をお掛けしているのは重々わかっているのです」
「いや、もう迷惑などとは思っていない」
「私たちオークニー一門は、宮廷では権勢を誇る一族と思われております。それゆえ、ガウェインの意向に逆らえる騎士などそうそういないのです。増して、私は女の身。私を従騎士としてくださるような騎士など見当もつかず、この国の習いに囚われぬヨシタカ卿にお縋りするしかなかったのです」
「そういうことか」
ふっとヨシタカ卿は笑った。
「軽蔑なさいますか?」
今にも涙をこぼしそうなメローラに、ヨシタカ卿は優しく言った。
「いいや。そなたのように自力で運命を切り開こうとする者を私は好ましく思う」
「ありがとうございます」
安堵して目を伏せるメローラを前に、ヨシタカ卿の胸に遠い昔の思い出が去来する。
「私の国にも名を馳せた女騎士が何人かいる。決して多くはないが、いなくはない」
「はい、私は何も伝説に残りたいというわけではないのです。ただ、自分で自分の運命を決められるようになりたいのです」
「そうだな」
今はこの娘の力になってやるのも悪くはあるまいとヨシタカ卿は考える。
「我が国の男はブリテンの男に比べて小兵であるが、それに見合った剣技というものもある。この国の剣技に比べれば、女子のそなたにも向いていよう。そういったものを教えてやれればと思う」
「はい、よろしくお願いいたします」
「日が落ちて、冷えて来た。戻ろう。風邪をひいては冒険にも出られぬゆえな」
「はい!」
冗談めかしたヨシタカ卿の言葉にメローラは頷き、2人は連れ立って屋敷へと戻って行った。




