遥か東より来た騎士3
翌朝、ヨシタカ卿は居室のドアをノックされる音で目が覚めた。ヨシタカ卿にはキャメロット城の一室が宛がわれていた。昨夜の宴で酒を飲んだうえ、久々にまともなベッドに横たわれ、周囲の安全に気を張る必要もないとあってか眠りがかなり深かったため、頭が非常に重い。朝日の傾きと空気の冷たさからするに、まだ早朝のようだが一体何だ……とドアを開けると、少女と見間違えるほどの美少年が立っていた。
「おはようございます、ヨシタカ卿」
「ああ、おはよう。どうかしたのか?」
「中に入ってもお話ししてもよろしいですか?」
「ん? ああ」
とにかく頭が重くて立ち話を続ける気には到底なれず、ヨシタカ卿は少年を部屋に入れた。書き物机の椅子を勧め、自分はベッドに腰を掛ける。
「それで何の用だ」
「兄を助けてくださってありがとうございます」
「兄?」
「はい。ガーエリスのことです」
「ガーエリス卿の弟なのか」
「はい。私はメローラと申します」
「そうか。礼には及ばぬ。当然のことだ」
「さすがですね。兄は貴方を褒めちぎっていました。一緒に旅をしてきたが、貴方こそ騎士の中の騎士であると」
「そのように褒められるようなことをした覚えはないが……」
「何事にも謙虚で、禁欲的だと言っていました」
「君たちにはそう見えるのかもしれないが、私にとっては当然のことだ」
ヨシタカ卿の答えを聞いて、メローラは目を輝かせた。
「兄が言った通りの方です!」
「……それが用件かな」
訂正を諦めたヨシタカ卿が言うと、おずおずとメローラが言った。
「いえ、その……兄を救っていただいて、さらに不躾なお願いで恐縮なのですが」
言葉を切ったメローラに、ヨシタカ卿は目で先を促した。
「私をヨシタカ卿の従騎士にしていただけないでしょうか」
従騎士に……とオウム返しに呟いて、ヨシタカ卿は考える。旅すがらガーエリス卿から聞いた話では、ブリテンでも従騎士を経て騎士になるということだった。メローラは小柄ではあるが、このくらいの年頃から騎士の世話をして、作法を学ぶとも聞いた。しかし……。
「確かに私には従騎士はおらぬが……私はブリテンの騎士ではないし、正式な作法を教えてやれぬ。誰かほかの騎士を当たった方がいいのではないか? 君も王の甥なのであろう。であれば、師と仰ぐ騎士には困らぬと思うのだが……」
「そうなのですが、兄があれほど人を褒めるのを見たのは初めてなのです。形式的な騎士の作法であれば書物でも学ぶことができますが、私は真の騎士にお仕えしたいのです!」
「ふうむ……ガーエリス卿はこのことをご存じなのか?」
「はい、ヨシタカ卿さえお許しになるならと。それで、ヨシタカ卿がほかに従騎士を取られぬうちにと、ご迷惑とは存じましたが、こうして早朝から参ったのです」
「わかった。私にも従騎士が必要だったところだし、それも君のように身元が確かな者ならば望むべくもない。ただ、私はブリテンの世の習いに通じておらぬゆえ、少しは習俗に通じた者がよかったのだが……」
「その点についてはお任せください! 私はたびたび城を抜け出しては街を散策しておりましたので、ほかの誰よりもお役に立てるかと!」
勢い込むメローラの様子にヨシタカ卿は苦笑した。
「わかった、では明日から来なさい。昼には私もガーエリス卿に話をしに行こう」
「ありがとうございます!」
喜色を浮かべるメローラを見て、ヨシタカ卿は微笑んだ。
「さあ、今日はもう帰って支度をしなさい。私もまだ眠い」
「は、はい! お疲れのところ申し訳ございませんでした!」
立ち上がったメローラをヨシタカ卿が送り出す。
「ではな」
「ありがとうございました!」
ヨシタカ卿はドアを閉めるとベッドに倒れ込み、また深い眠りの世界へと落ちて行った。




