遥か東より来た騎士16
ヨシタカ卿が倒れた巨人の足元へと歩いていく。見れば、鈍く光る紐が幾重にも巨人の足に巻き付いていた。触れてみると、堅く締められており、緩みそうにない。
「ふうむ、まこと不思議なものだのう」
だがメローラが触れると、一瞬光ったかと思うと、一筋の紐が巨人の足に掛かっているだけとなった。メローラは紐をするすると引き、束にする。
「力を失ったようです。恐らくしばらくは使えぬかと思います」
「なぜわかるのだ?」
「私が引く血のせいでしょう。それについては落ち着いた頃にお話しいたします。今はラムロック卿の応援に向かいましょう」
生まれのことを立ち話で聞き出そうとするのも気が引けたので、ヨシタカ卿は頷いた。巨人に取りつく際に脱いだ鎧の許へと歩いていき、手早く付け直す。メローラもそれに倣った。
「ではラムロック卿の加勢に行くぞ」
「はい!」
空を仰いで太陽の位置を確かめ、南西へ向かう。
「ラムロック卿はご無事でしょうか」
「どうであろうな。私のように策を弄することはなさそうな御仁だったが……」
ローランとヨシタカ卿の話に、メローラが加わる。
「きっとご無事でしょう。ガウェインは力を3倍にする帯を持っていますが、それでもラムロック卿には敵わないのですから」
「見えました!」
エレンの差す方角へと馬を寄せる。すぐに、双頭の巨人とそれに立ち向かう人影が見えた。ヨシタカ卿が眉をしかめる。巨人と戦う人影は果たしてラムロック卿であった。だが、少し離れて人と馬が2体ずつ、大地に転がっていた。
「あの者たちの容態を手分けして見て参れ。巨人はこちらで引き付ける」
はい、と答えてローランとエレンが分かれた。巨人の様子はと見ると、両足首から下が流れる血で真っ赤に染まっており、立っているのも辛そうであった。
「ラムロック卿、お助けに参りましたぞ!」
「手出し無用!」
ラムロック卿の返事に、ヨシタカ卿は目を丸くする。
「卿には先を越されたようだが、こちらもすぐに片付けるゆえしばし見ておれ!」
言って、ラムロック卿はランスを立てると、馬に拍車をかけた。右に膨らむように緩やかな弧を描きながら、ランスを水平に倒しつつ突撃していく。巨人はそれを迎え撃とうと、樹木を握った右腕を肩まで振り上げ、横薙ぎに振るう。それを見たラムロック卿は身を屈めつつ加速。ラムロック卿が巨人の右拳の下を左前方へと潜り抜け、巨人の股の下を通り抜けざまに右足首を突く。すると、棍棒を空振った巨人がバランスを崩し、右肩から倒れ込んだ。馬を返して戻って来たラムロック卿が、倒れた巨人の右の後頭部をランスで深く突き刺したかと思うと、鞍の上に立ち上がり、ひらりと飛んだ。
「聖ジョージの加護あれかし!」
ラムロック卿が宙で叫び、剣を抜いて逆手に持ったかと思うと、自分を凝視する左の頭の首元へと突き立てる。そのまま剣に体重をかけ、喉元まで切り裂きながら着地した。剣を巨人から引き抜き、抜かりなく構えつつ後ずさるラムロック卿。首から血を噴き出した巨人が痛みにのけ反ったかと思うと、血の泡を吐いてばたりと倒れた。最早巨人は動かぬと見たラムロック卿が、血を払って剣を鞘に納める。飛び降りた馬を自身の従騎士が引いて来ると、ラムロック卿は再び馬上の人となった。
「お見事!」
ヨシタカ卿たちが駆け寄って声をかけたが、ラムロック卿はさして喜ぶ素振りもない。
「卿には後れを取ってしまったな」
「いやいや、かように鮮やかな戦いぶりを見たのは初めてでござる!」
世辞抜きにヨシタカ卿は言ったが、ラムロック卿は褒められるほど複雑な気分になるようであった。
「私の従騎士はどうなったであろうか」
「ともに息はしておりますが、急ぎしかるべき処置が必要かと存じます」
エレンが答えた。
「そうか。……ヨシタカ卿、私はこれよりペルシーの街へ行き、従騎士たちを医者に見せようと思う。申し訳ないが、トマスグリーンと王への報告を頼めぬであろうか」
「私の従騎士にも手伝わせましょう」
「いやよい。できれば卿にはガレス卿にも助力してやってほしいと思う」
「ラムロック卿……」
呟くメローラに、ラムロック卿が答えた。
「私自身はオークニー一族に思うところはないのだ」
「ガレス卿には恩義がありますゆえ、卿のお力になるのは望むところです」
「よろしく頼み申す」
「左様ならばこれにて。卿の従騎士の快復を祈っております」
「痛み入る。卿らに神のご加護があらんことを」
こうしてヨシタカ卿たちはラムロック卿とも別れ、トマスグリーン村へと戻って行った。




