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遥か東より来た騎士15

ヨシタカ卿はエレンとともに、大きく円を描くように馬を走らせる。巨人の体は長時間の走行には不向きなようで、追って来る速さも大分鈍くなっているようだった。

「これは意外と早くケリが付くかもしれぬな」

ヨシタカ卿が呟くと、間に紐を張ったメローラとローランが、巨人に後方から左右に分かれて近付き、そのまま巨人を追い越した。2人の従騎士は巨人前方で合流。ローランが紐を大きく持ち上げ、その下をメローラがくぐると、2人は馬首を巡らせて巨人後方、追い抜いた時とは逆側へと転回する。メローラたちから巨人の注意を逸らそうとヨシタカ卿が矢を射ると、それを嫌った巨人がのけ反った。その瞬間、メローラとローラン、さらに巨人の足元を結ぶかのように、一筋の光が走った。巨人が足を揃え、両膝を付くように転ぶ。何事かとヨシタカ卿は驚きつつも、巨人が受け身を取るために手を付こうとした瞬間を見逃さない。矢を続けざまに2本放つと、左の頭の両目に命中した。

「お見事です!」

エレンが叫ぶ。痛みに耐えかね、ごろごろと横転する巨人。巻き込まれぬよう、メローラとローランが紐を手放した。

「確かに魔法の紐だったようだ。しかし……」

「これでは近づけません」

ヨシタカ卿の言葉を、エレンが継いだ。

視界の大半を失って、巨人は遮二無二腕を振り回している。

「落ち着くのを待つか。両目を潰した側に回れ。紐はどうなっている?」

「何重にもなって巨人を足を縛っているようです!」

「ふうむ……魔法というのはどれくらい続くものなのだろうな?」

「あれが伝承のドラウプニルなら、解けることはなさそうですが……」

「伝承? 名の知られた紐なのか?」

「北の民の神話では、神を殺す狼をも縛るのだとか」

巨人に神か。とんでもない国へ来たものだ。エレンと話しているうちに、メローラとローランも合流する。

「これからどうしましょう?」

「それを思案していたところだが……おおよそ固まったぞ」

訊ねるメローラにヨシタカ卿が答えた。巨人の様子を見ると、腹ばいになって地に両手を付き、ヨシタカ卿のたちの姿を探している。

「お前たちは巨人の注意を引け。手に払われぬよう気を付けろよ」

「わかりました!」

従騎士たちの返事を聞いたヨシタカ卿は、巨人の死角となる左側から大きく反対側へと回って行く。そんなヨシタカ卿の動きを悟られぬよう、従騎士たちが巨人を引き付ける。やがて巨人が従騎士たちを叩き潰そうと片手を振り上げた瞬間、従騎士たちとは反対側へ辿り着いたヨシタカ卿が、巨人の最後の目に向かって弓を射る。矢は狙いを過たず、的を射抜いた。

「これで最早何も見えまい」

ヨシタカ卿が独り言ちる。そんなヨシタカ卿の弓の腕を見て、従騎士たちが半ば呆れたように口を開く。

「すごいなヨシタカ卿は」

「百発百中ですね」

「どうして馬から射てあんなに当たるのでしょう」

そこへ戻って来たヨシタカ卿が訊ねた。

「木登りに自信がある者は?」

従騎士たちは顔を見合わせる。メローラが口を開いた。

「この中でしたら、私が一番身軽でしょうか……」

ヨシタカ卿が、メローラの顔をまじまじと見つめた。

「これより巨人に止めを刺す。腰の毛皮に取り付いて背を駆け上がり、首の付け根に剣を刺すのだ」

「それでしたら私が参ります!」

「いいのです、私がやります」

血相を変えるローランに、メローラが言った。

「密かに騎士を志してから、身の鍛錬は欠かさなかったつもりです。貴方も知っているでしょう?」

「しかし危険が大き過ぎます!」

「貴方が認めた試練にしか挑めないようでは、私が騎士を志した意味がありません。ヨシタカ卿が特に貴方を選んでお命じにならないのも、そういうことなのでしょう」

ローランが押し黙り、ヨシタカ卿が静かに言った。

「勇気と無謀は違う。できぬというものを強いるつもりはない」

「やります、やらせてください!」

「わかった。両方の首を同時に刺さねば巨人が転がり回るかもしれぬが、私がそなたに合わせる。そなたはただ巨人の首に剣を刺すことだけを考えればよい」

「わかりました」

言いながら武装を解いて身軽になるヨシタカ卿に倣い、メローラも素早く武装を解く。

「では行くぞ!」

「神のご加護を!」

巨人の腕の動きに注意しながら腰へと回り込むと、ヨシタカ卿とメローラは馬を降りた。

「行け!」

機会を見計らい、ヨシタカ卿が号令をかける。メローラが毛皮に取り付くと、下からヨシタカ卿が押し上げた。顔を背けたくなるほどの悪臭に息を止め、素早く上っていくメローラ。追ってヨシタカ卿も上り始める。メローラたちは、肌の厚い巨人の背中を小走りに上がっていく。すぐに左のうなじへと辿り着いたメローラが両膝を付き、逆手に持った剣に全体重をかけて、やっと柄まで突き刺した。間髪入れずにヨシタカ卿も右の首を刺す。すると、巨人は短く呻いて痙攣し、腹ばいのまま崩れ落ちて動かなくなった。突き刺した剣の柄にしがみ付き、転落を防ぐヨシタカ卿たち。ヨシタカ卿たちの馬を引いたローランとエレンが、ヨシタカ卿たちの名前を呼びながら駆け寄って来た。剣を引き抜いて血を払ったヨシタカ卿とメローラが、巨人の肩から腕へと伝って下りて行く。

「どうにか片付いたようだな」

「お見事でした!」

「神よ、ご加護に感謝します!」

ローランとエレンがヨシタカ卿たちを称賛し、メローラが神に感謝の言葉を捧げた。

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